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第0095話 父の敵

霧深い夜。

石畳の街路には、誰も歩いていなかった。

ただ、遠くで鐘が鳴り、街灯が揺れるだけ。

その薄暗がりの中、四人の探偵は静かに歩を進める。


「……犠牲者の数が増えている」

ライネルが低く呟く。

「祈りの言葉の誤りだけで、どうしてこんなことになる」


シルヴィアは帽子を傾け、ぶつぶつと独り言のように笑った。

「なんかさ、街全体が石になろうとしてるみたいだね」


「笑えないわ」

マリーベルの手が杖に力を込める。

「祈りの言葉のせいだけじゃない。誰かの行動が、悪影響を増幅させている」


アリアは静かに頭を垂れる。

「……援助者の存在です。意図せず仇討ちをしてしまった者。

 彼の行動が、石化の呪いに繋がっている」


四人は市場の片隅に、痩せた若者を見つけた。

その瞳は怯え、手には古びた短剣が握られている。

「……また、街を騒がせてしまったのか」

若者は自責の念で震えながら言う。


「お前が仇討ちをしたのか?」

ライネルは問い詰める。


「……知らずに、です」

若者は俯く。

「父の敵だと思わずに斬った。

 それが――結果的に、親の敵を討つことになってしまった」


マリーベルが鋭く言い放つ。

「偶然の行動が、こんなにも大きな被害を生むなんて……」


「偶然……それだけじゃない」

アリアは指先で地面を指す。

「祈りの言葉の中で、意図せず誤った言葉を発した人々がいました。

 その声の誤りと、あなたの仇討ちが重なったから、石化は広がったのです」


シルヴィアは帽子の羽根をくるくる回す。

「言い間違いだけで街中が巻き込まれるって、どんだけ悪運強いんだよ……」


そのとき、街の広場で叫び声が響いた。

人々が避ける中、次の犠牲者が石の姿に変わる。

「間違い……言葉の……」

その呟きは風に乗って、街中に冷たく響く。


ライネルは剣を握り締める。

「声の誤りを止めるしかない」

マリーベルも火を燃やすように力を込めた。

「だが、誰もその間違いに気づかない……」


四人は街の中心に駆け、言葉の誤りを追跡した。

古びた碑文や祭壇に残された祈祷の痕跡、口伝の音韻――それらをたどりながら、石化を引き起こす言葉の連鎖を解きほぐす。


アリアは一歩前に出て、祈りを紡ぎ直す。

「正しい響きで、鎮める……」

彼女の声は澄んで、街の嫌な感情を静めるように流れた。


すると、石化した女たちの体が微かに光を帯び、細かいひびが入り、やがて崩れ落ちた。

命は戻らない。しかし、呪いの力は確実に弱まっていく。


夜が明け、街は静寂を取り戻した。

若者は震えながらも、初めて安堵の息をつく。

「……自分のせいで……街を巻き込んでしまった」


「偶然や失敗は、避けられないこともある」

ライネルは肩を落とさず言った。

「だが、理解し、正せば、被害を最小限にできる」


シルヴィアが口を開く。

「それにしても……街の人間、声を間違えるだけで石になるなんて、怖すぎるよね」


マリーベルは杖をしまい、炎を消す。

「怒りも恐怖も、嫌な感情は大きな力になる。

 でも、正しい言葉で押さえ込めば、救えるのよ」


アリアは静かに祈る。

「嫌な感情も、間違いも、受け止めるしかない……。

 それが人の世界なのですね」


四人は互いに視線を交わす。

街は再び動き始めたが、胸の奥にはまだ、石化の影と、誰も救えなかった命への後悔が残っていた。


――意図せず行われた仇討ち、そして言い間違い。

その連鎖が、街に嫌な感情を残したまま。

それでも、四人は歩き続けるしかなかった。

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