第0090話 石のままに終わらせはしない
街の夜は静まり返っていた。
石化の恐怖から解放された住民たちは眠りにつき、酒場〈四葉亭〉もひっそりとした灯りだけが揺れている。
しかし、探偵たちの胸には不安が渦巻いていた。黒幕はまだ手の届く範囲にいる。
「準備はいいか?」
ライネルが剣を握りしめ、低く問いかける。
シルヴィアは肩をすくめ、軽口を叩く。
「まあね。やることはやるけど、後で酒の代金はちゃんと払ってもらうわよ」
マリーベルは杖を握り、怒りを滲ませた。
「ふん、今度こそ焼き尽くす」
アリアは小さくうなずき、祈りの手を組む。
「皆が無事でありますように……」
探偵は地図を広げ、黒幕の潜む場所を特定した。
そこはかつて石化の中心となった地下の遺跡。逆暗号の起源が残る場所であり、黒幕の力が最も強く働く領域だった。
遺跡に足を踏み入れると、冷気と静寂が全身を包む。
中央に立つのは、黒衣の人物――黒幕そのもの。
薄暗い光が逆暗号の模様を浮かび上がらせ、空気をねじ曲げている。
黒幕はにやりと笑い、言った。
「来ると思っていたぞ、探偵。ここで力を尽くす覚悟はあるか?」
探偵は鋭く答えた。
「もちろんだ。あなたの策略はもう通用しない」
多頭の影のように形を変え、遺跡の石壁から黒幕が操る力が迫る。
ライネルは盾となり、攻撃を受け止める。
シルヴィアは素早く動き、黒幕の注意を逸らす。
マリーベルは炎を放ち、石の壁を焼き崩す。
アリアは仲間を癒やし、祈りで力を高める。
探偵は逆暗号の中心を見極め、力を一点に集中させた。
「……この街は、人間・妖怪、誰も石のままに終わらせはしない」
声と手の動きで逆暗号を正しい形に戻すと、石の波動が緩やかに消え、黒幕の力も弱まった。
黒幕は最後の抵抗として巨大な石の塊を操ろうとしたが、仲間たちの連携で完全に封じられ、地面に倒れ込む。
ライネルが剣先を黒幕に向けたが、探偵は制した。
「もう十分だ。正しい形で解かれた今、これ以上の破壊は意味がない」
黒幕は悔しげに唇を噛み、やがて力を失って倒れる。
遺跡の光が消え、夜空に静かな風が吹き渡った。
街に戻ると、石化していた建物や人々はゆっくりと元に戻っていた。
仲間たちは疲れ切って座り込み、アシュレイは温かい飲み物を差し出す。
探偵は静かに立ち上がり、街の灯りを見つめた。
「……これで、街は救われた。犠牲もあったが、無駄ではない」
シルヴィアが笑い、軽口を叩いた。
「まあ、やれやれね。次の依頼が来る前に、酒でも飲む?」
ライネルは肩をすくめ、低く笑った。
「悪くない。だが次はもっと手強い奴が現れる予感がする」
マリーベルは杖を杖置きに置き、仲間たちを見回した。
「どんな相手でも、今度こそ完膚なきまでに叩き潰してやる」
アリアは微笑み、仲間たちの手を握った。
「皆で生き延びられてよかった……」
探偵は最後に深呼吸し、夜空を見上げた。
石から生まれたかのように甦った街と人々を前に、次なる旅の決意を胸に刻む。
闇の中で、かすかな逆暗号の残滓が揺れるが、今はまだ、希望の光が勝っていた。




