第0009話 復讐の連鎖
港町の空は、まだ薄暗く、朝靄が残っていた。雨は上がったものの、石畳は水で濡れ、湿った匂いが街全体を覆う。
四元素亭の暖炉はまだ火を灯しており、昨夜の嵐の余韻を吸い込むかのように、店内には重苦しい空気が漂っていた。
ライネルは紙に向かい、証言の整理を続けていた。
「子供たちが……父を守るために、先回りして動いている」
低くつぶやく声に、シルヴィアが反応する。
「ふふ、かわいいじゃない。だけど、危なっかしいわね」
マリーベルは眉をひそめ、拳を握る。「守る気持ちはわかる。でも、それで誰かが死んだら……」
アリアは窓の外を見つめ、穏やかに言った。「父を救うための行動が、別の悲劇を生むかもしれません」
酒場の外、小路を駆ける数人の子供たち。
「父の敵はここに来るはずだ! 先に叩かなければ」
「でも、間違えれば……」
「それでも父を守るんだ!」
子供たちは、昨夜の証言と街の動きを思い返し、先回りを試みる。
影の中で忍び寄る足音、湿った石畳に響く小さな靴音、緊張で手が震える。
彼らの行動は、港町の暗い路地に静かな恐怖と緊張感を巻き起こしていた。
夕方、父親の家の前。子供たちの狙いは、暗殺者の先回り。
「今だ!」小さな声が響く。
しかし、そこには予想外の敵が待ち受けていた。
刃が光り、木製の扉をかすめて振り下ろされる。子供たちは必死に避け、父親は事なきを得る。
その瞬間、ライネルたちは酒場で推理を続けていた。
シルヴィアは眉をひそめる。「あの子たち……無茶してるわ」
マリーベルは怒りに顔を紅潮させ、「誰が子供たちにそんな危険を……」
アリアは静かに首を振る。「彼らには、父を守るという目的が最優先なのです」
四葉亭では、カリストが再び姿を現す。
「君たちの推理は、どうやら一部間違っているようだ」
ライネルは冷静に応対する。「間違いがあるなら、指摘してみろ」
カリストはにやりと笑い、巧みに情報を操作しながら、四人の推理を揺さぶる。
酒場の客も騒ぎ出し、混乱は増す。
シルヴィアは軽やかに人混みを縫うように歩き、カリストの言葉の矛盾を探る。
マリーベルは感情のままに問い詰め、情報を引き出す。
アリアは冷静に観察し、ライネルと小声で推理を共有する。
酒場地下にある石像。黒白のまだら模様は微かに脈打ち、まるで生きているかのようだ。
ライネルは指で模様をたどりながら考える。「この石像……単なる飾りではない」
シルヴィアは顔を近づけ、囁く。「何か……感情を持ってるみたいね」
マリーベルは炎の魔法を当て、反応を確かめる。「まるで怒りを感じる……」
アリアは静かに手を合わせ、「人の魂が宿っているのかもしれません」
石像の存在は、事件の真相と密接に絡んでいることを、
四人は理解し始める。
子供たちの行動と、暗殺者の先回りは、港町に小さな混乱を生む。
人々の怒りと恐怖が連鎖し、港町の平穏は崩れていく。
ライネルは紙に書かれた証言と行動を照合し、「復讐の連鎖が、この街を覆っている」と呟く。
シルヴィアは笑みを浮かべ、「面白くなってきたわね」と言うが、目は真剣そのものだ。
マリーベルは拳を握り締め、怒りを抑えきれない。「誰も死なせない……絶対に!」
アリアは窓の外を見つめ、雨に濡れた石畳を思い浮かべる。「でも、この連鎖を止めるのは簡単ではない……」
ライネルは低く呟く。
「復讐は鎖のように人を縛る……だが、
その鎖の先に何があるかを見極めねばならない」




