第0081話 地底の門
夜の霧は、石畳の町にじわりと張り付く。
四葉亭を後にした私たちは、湿った路地を通り抜け、町の外れにひっそりと佇む古い礼拝堂へと向かった。
ここに、「地底の門」があるとドルグが示唆していた。
「ここだ……」
ライネルが石扉を指差す。扉の表面には古代文字が刻まれ、苔で覆われている。
「先に開いた者が真実を手にする……やつの罠かもしれん」
マリーベルは杖を構え、シルヴィアは影に紛れ、アリアは祈りの言葉を低く唱える。
私たちが慎重に近づくと、扉の隙間から湿った風が吹き抜け、かすかな囁きが響いた。
それは人間の声ではなく、地底から湧き上がる低い唸りのようだった。
扉に触れると、その瞬間、床に刻まれた円環から石の蔦が伸びて、男――援助者の姿を絡め取った。
「ライネル……!」
仲間たちの声は届かず、蔦は瞬く間に男を石へと変えてしまう。
冷たい石になった彼の目には、最後まで人間の温かみが宿っていた。
その直後、地面が震え、地下から巨大な影が浮かび上がった。
不死身の怪物――全身を黒い鱗に覆われ、四本の腕が蠢く。
その唯一の弱点は足だ。ライネルは咄嗟に距離を詰め、盾を掲げる。
「奴の足を狙え!」
シルヴィアは身軽に障害をかわし、短剣で怪物の足を切り裂く。
マリーベルは火の魔法で攻撃を牽制し、アリアは仲間の負傷を癒す。
その最中、ドルグが黒い外套を翻して現れる。
「遅かったな。だが、これで真実は私の手に……」
彼の目は冷たく光る。争いは避けられず、ライネルと対峙する。
「俺たちが、真実を守る」
怪物と戦いながら、私たちは円環の中心に進む。
導師は儀式を完成させようとするが、怪物の足を狙った攻撃が次第に彼の力を削いでいく。
ついに、地底の門がゆっくりと開き始める。
暗闇の奥に、石造りの螺旋階段が続く。
そこに待ち受けるのは、十五年前の事件の真相――依頼人の血筋、町の呪い、そして未解決の謎。
「さあ……行くぞ」
ライネルが仲間を見渡し、静かに前を歩き出す。
その背後で、ドルグは立ち尽くす。
「……俺もついていく」
だがその心にあるのは、競争心か、それとも真実への探求心か――誰にも分からない。
血の霧の残香と、石の冷たさ。
地底の門は静かに、しかし確実に、私たちを呑み込もうとしていた。
扉の奥で待つのは――謎、秘密、そして落差。
一歩踏み出すごとに、現実と理想の間の闇が広がっていく。




