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第0008話 言葉の迷宮

雨の夜が明けきらぬ港町、四元素亭の暖炉はなお揺れていた。

昨夜の嵐は小康状態に入り、雨音は窓ガラスに静かに打ち付ける程度になっていたが、酒場内の空気は重く、湿った緊張感が漂っている。

ライネルは紙と羽根ペンを手に、昨夜集めた証言を何度も見返していた。


「一体、どれが本当なんだ……?」

彼の低い声は、窓の外の雨音に吸い込まれるように消えた。

シルヴィアはカウンターに肘をつき、軽く笑いながら言う。

「言い間違いって、面白いわね。誰かが間違えれば、別の真実が浮かぶもの」

ライネルは眉をひそめる。

「笑ってる場合じゃない。これから先、誰が何を言うかで事件の全貌が変わる」

マリーベルは腕組みをし、苛立ちを露わにする。

「言葉遊びなんて無意味よ! 早く犯人を突き止めなさい!」

アリアは窓の外を見つめつつ、静かに答える。

「でも、言葉の裏には必ず真実が隠れている。焦らずに拾っていけばいいの」


酒場の客や使用人が次々に証言を口にする。


「昨夜、商人は一人で地下にいた」

「いや、誰かと会っていたはずだ」

「いや、商人は昨夜ここで酒を飲んでいた……」


矛盾は多く、事実を一つにまとめることは困難だった。

ライネルは羽根ペンを走らせ、証言の矛盾点をひとつずつ洗い出す。

シルヴィアは意図せず、誰かの言葉を繰り返して言い間違え、思わぬ手がかりを提供する。

アリアはその言い間違いのパターンを見逃さず、重要な時間帯や人物の動きを推測した。


「なるほど……この小さな間違いが、真実の断片になるのね」

シルヴィアが小さく笑う。

ライネルは頷きながら、紙に線を引き、矛盾を整理する。

「これをつなげれば、事件の輪郭が見えてくる」


その時、酒場の扉が大きく開き、長身の旅人が現れた。

「やあ、君たちもこの事件に関わるのか?」

カリストと名乗った男は、自信に満ちた笑みを浮かべ、軽い足取りで暖炉の前に座る。

「私も推理してみたんだが……君たちの推理には大きな穴がある」

ライネルは静かに見据える。

「君の推理は何を根拠にしている?」

カリストは肩をすくめる。

「あくまで観察だ。君たちが見逃している細部を指摘する」


マリーベルは憤る。

「また外部の人間が口出しするのか! 邪魔になるだけ!」

シルヴィアは笑いながら、

「面白くなってきたわね」と呟く。

アリアは冷静に状況を見極め、

「でも、無視できないかもしれません」と答える。


証言が錯綜する中、ライネルは図表を描き、証言の時間軸を整理する。

シルヴィアは会話の端々に潜む微妙な矛盾を拾い上げ、思いがけない手がかりを提供する。

アリアはそのパターンを読み取り、誰がどの瞬間に何を見ていたかを推理する。

マリーベルは怒りで証言者を追及し、隠された動機や行動を白日の下にさらす。


客の一人が言い間違えるたび、四人は互いに視線を交換する。

「……あの言い間違い、何か意味があるはずだ」

ライネルが呟く。

「気づいた?

シルヴィアが嬉しそうに笑う。「ほら、私たちの連携が役立ったわ」

アリアは静かに微笑む。

「小さな間違いも、見逃してはいけない」


酒場の片隅で、数人の子供たちがひそひそと話していた。

「父を狙う者がいる。先に敵を討たねば……」

「でも、間違えれば……」

「間違いでも……父を救うためなら!」


子供たちは父親を守るために、既に行動を始めていた。

ライネルはそれに気づき、眉をひそめる。

「この予測不能な行動が、事件をさらに複雑にする」


雨は静かになったものの、酒場内の空気はますます重くなっていた。

壁に掛かるランタンの明かりが揺れ、影が複雑に動く。


客の視線、スタッフの動き、火の爆ぜる音……

五感に働きかける描写が続き、読者に緊迫感を伝える。


ライネルは紙を広げ、推理を整理する。

「真実は、言葉の迷宮の中に隠されている……」


ライネルは低く呟く。

「迷宮の出口は見えてきた……しかし、出口には何が待っているのか」


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