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第0079話 謎と秘密と対立

霧に包まれた路地を抜けた先、四葉亭の灯火はいつもよりも揺れて見えた。

扉を押し開けると、湿り気を含んだ風が吹き込み、油煙の匂いに混じって泥の匂いが鼻を刺す。

その場に居合わせた誰もが同じことを感じたのか、杯を持つ手が一瞬止まり、沈黙が走った。


「戻ったか」

重たい声でそう言ったのは、土の騎士ライネルであった。椅子に腰かけた姿勢のまま、石のような表情を崩さない。

彼の前には、すでに空になったジョッキが二つ並んでいる。

「水路の影は追えた。だが……不吉な雨は、まだ降りやんでいない」

女僧侶アリアが答える。声は柔らかいが、その目には疲労と不安が滲んでいた。


女魔法使いマリーベルが短く舌打ちをする。

「つまり敵はまだ動いているってことね。影は一つじゃない……」

「なにを難しく考えるんだよ」

シルヴィアが横から口を挟んだ。盗賊らしい気楽な笑みを浮かべ、椅子を後ろ脚だけで支えて揺れている。

「影が複数だろうが、足跡をたどれば同じことだろ?」


その瞬間、酒場の扉が強く叩かれた。

鉄を叩くような硬い音に、場の空気が凍り付く。

入ってきたのは、見知らぬ大柄の男――その存在感に、四人の狂言回しの目が一斉に細められた。


「ドルグ……!」

ライネルが低く呻く。

かつて幾度となく依頼を奪い合ってきた、宿敵の探偵。

鎧ではなく黒い外套をまとい、目の奥に冷たい光を宿す男。


「面白い依頼を受けたそうじゃないか」

ドルグの声は低く抑えられていたが、確かな響きを持っていた。

「俺も調べさせてもらう。……いや、いずれ真実は俺の手に落ちるだろう」


アリアが思わず口を開く。

「依頼は私たちが……」

だがマリーベルが彼女の袖を引いた。

「余計なことは言わないの」


沈黙の中で、ライネルの胸に重たい枷が落ちる。

不測の展開――ライバルの介入。

彼の暗い心には、怒りにも似た感情が芽生えていた。


酒場の奥、依頼人が震える声をあげる。

「……どうして、あなたが……!」

その言葉に、仲間たちの視線が一斉にドルグに向かう。


「秘密を知る者は多い方がいい。あるいは、少ない方が真実に近づくか」

そう言ってドルグは、杯に手を伸ばし、勝手に葡萄酒を注いだ。

重たい雰囲気をかき混ぜるように、酒の香りが立ちのぼる。


その夜、四葉亭の空気は、謎と秘密と対立が絡まり合っていた。

敵は不吉な雨、だが同時に、目の前のライバルもまた影である。

やがて訪れる「地底」への道程を誰も知らぬままに――。

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