第0076話 淡い月光
四葉亭の扉が激しく揺れ、夜風と雨が一斉に吹き込む。
探偵団は卓を囲み、依頼人と赤子を守るために身を固めた。
ドルグは静かに黒衣を翻し、冷たい瞳で四人を見据えている。
「全ての答えは、この赤ん坊にある」
依頼人の声が震え、しかし揺らぐことはなかった。
その言葉に、酒場の空気が一瞬で凍る。
ライネルは拳を握り、過去の底知れぬ穴を思い出す。
失ったもの、守れなかったもの、悔恨と痛み――
それらが、今の決意を強固にしていた。
「俺たちは、誰も傷つけない」
その一言で、探偵団の意思が結束する。
ドルグは冷笑を浮かべる。
「甘いな……過去は逃げられぬ。合図を逆にされたこの赤子も、運命の糸に絡め取られるだけだ」
マリーベルは怒りに任せて立ち上がる。
「黙って見てられると思ったら大間違いよ!」
アリアは静かに祈るように手を重ねる。
シルヴィアはくすくすと笑い、風のように動く。
「さあ、運命とやらを吹き飛ばしてやろうか」
激しい対決の最中、酒場の奥からかすかな声が響いた。
――赤ん坊の声。
微かに、しかし確かに聞こえる泣き声が、四人の胸に直接届く。
それは恐怖でも怒りでもなく、純粋な存在の声だった。
ライネルはその声に耳を澄まし、思い出す。
――過去、失った命の声。
今、目の前にある赤子は、その声と未来の希望を背負っている。
ドルグの影が迫る。
しかし、探偵団は決して後退しない。
四人の力と結束は、火と風と土と水の四元素のように絡み合い、暗闇を切り裂く。
ついに、赤ん坊を巡る秘密が明かされる。
生まれたのは女児であると合図されていたが、実際は男児――
その逆の合図は、家族を守るために巧妙に仕組まれた策略だった。
ドルグは計略をもって挑んだが、探偵団の連携の前に退けられる。
雨は止み、窓からは淡い月光が差し込む。
赤子の声は静かに響き、酒場には平穏が戻った。
依頼人は涙を拭い、静かに微笑む。
ライネルは深く息をつき、仲間たちの肩に手を置く。
「底知れぬ穴は、もう恐れる必要はない」
マリーベルは火のように笑い、シルヴィアは風のように軽やかに跳ねる。
アリアはそっと祈り、未来への希望を胸に刻む。
赤ん坊の声が、酒場の天井から壁、そして心の奥へと響き渡る。
それは単なる泣き声ではなく、新たな未来の始まりを告げる、柔らかくも力強い合図だった。
四葉亭の夜は明け、雨は上がった。
依頼人と探偵団、そして小さな命――
それぞれが歩むべき道は、今まさに新しい光に照らされている。




