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第0075話 避けられぬ落とし穴

雨は夜の街を洗い、濡れた石畳に反射して灯りを乱す。

 酒場〈四葉亭〉の扉を開けると、薪の香りが温かく、しかしどこか湿った緊張を帯びて漂っていた。

 四人の探偵団は、それぞれの思惑を抱え、卓に腰を下ろす。


 ライネルは黙ったまま、指先で木の節をなぞり、心の奥に潜む暗い記憶を引き出していた。

 底知れぬ穴――過去に失った仲間、裏切り、そして守れなかった命。

 その闇は、今も彼の胸を押し潰そうとする。


 シルヴィアが軽口を叩く。

「ねえねえ、なんでそんな顔してるのさ。今日は事件じゃなくて宴だって思えばいいのに」

 しかし、ライネルの瞳は揺らがず、答えは返ってこない。

 マリーベルは苛立ちを抑えつつ、火のように言葉を重ねる。

「宴どころじゃないわ。赤子を巡る陰謀は、まだ表面にも出ていない。何かが隠されている」


 アリアは小さく息を吐き、沈黙の中で祈るように手を組んだ。

 「……でも、誰かが守ろうとしているのも確かだと思う」


 その時、扉が軋み、ドルグの影が再び現れた。

 黒衣の男は、静かに、しかし確実に四人の間に入り込む。

「さて、探偵諸君。赤子の合図を巡る真実を知りたくはないか?」

 その声には、長く息を止めていたかのような、冷たく重い間が含まれていた。


 ライネルは立ち上がり、卓に手をつく。

「もう引き下がるわけにはいかない。依頼人の秘密を守る。それだけだ」

 マリーベルの瞳は炎のように燃え、シルヴィアは笑みを含ませながら拳を握る。

 アリアはそっと依頼人に近づき、励ますように手を置いた。


 その瞬間、酒場の壁に設えられた古い仕掛けが、微かに音を立てた。

 小さな震動が、床を通して足元に伝わる。

 ライネルは瞬時に察知した。

 ――底知れぬ穴は、目の前に広がっている。


 ドルグは意味ありげに笑った。

「その穴、君たちが避けられぬ落とし穴になるかもしれんぞ」


 その言葉を受け、探偵団の四人は互いの視線を交わす。

 過去の重み、依頼人の恐怖、そしてこれから立ち向かう未知の危険――

 すべてが一瞬で、現在の酒場に凝縮された。


 雨の音が窓を打つ。

 赤子の合図は、依頼人の過去と重なり、誰も知らぬ形で未来を揺さぶろうとしていた。

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