第0071話 雨上がりの水面
水路の奥、冷たい水の流れに沿って、石の階段が微かに光を反射していた。
ライネルは重い足を進めながら、頭の中で計算を巡らせる。
――ここに、依頼人の過去を示す手がかりがあるはずだ。
「……見つけたわよ」
シルヴィアが水面に映る何かを指差す。小さな箱が水底に沈んでいたのだ。
マリーベルは火の瞳を光らせ、拳を握る。
「慎重に取り出せ! 罠があるかもしれない!」
アリアは手を合わせ、魔法で水流を鎮め、赤子を守る盾の役割を果たす。
ライネルは箱を慎重に拾い上げ、封印を解くと、中には古い羊皮紙が入っていた。
そこには、逆に示された赤子の性別の合図と、依頼人の家族に関わる秘密が記されている。
その瞬間、背後から影が迫る。
盗賊団が最後の抵抗を試み、ドルグの目論見が間接的に作用していたのだ。
「退くな!」ライネルが低く叫ぶ。
マリーベルは炎のように駆け出し、シルヴィアは風のように盗賊を翻弄する。
アリアは祈りを込め、仲間たちを守る光を放つ。
戦いの最中、赤子の微かな声が響いた。
その声は恐怖でも怒りでもなく、純粋な存在の声として、四人の胸に直接届く。
ライネルは過去のトラウマと向き合い、深い底知れぬ穴から這い上がるように決意を固める。
「この赤子は、守るべき命だ。誰にも渡させはしない」
盗賊団は最後の力を振り絞るが、四人の連携の前に退けられる。
ドルグは影から静かに見下ろすだけで、直接手を出すことはなかった。
戦いが収まった後、水路には静寂が戻る。
ライネルは箱を依頼人に手渡し、説明を始める。
羊皮紙には、赤子の合図を逆にした理由――家族を守るための巧妙な策略――が記されていた。
依頼人は涙を浮かべ、静かに微笑む。
「……ありがとう、皆さん」
アリアは微かに頷き、シルヴィアはくすくす笑う。
マリーベルは拳を緩め、火の瞳を和らげる。
水路の影は、もはや恐ろしいものではない。
枷は解かれ、ひねりも理解された。
しかし、章の終わりは、次なる陰謀と謎への伏線を残していた。
雨上がりの水面に月光が反射し、赤子の声が小さく響く。
それは新しい希望の合図であり、次章への扉だった。




