第0070話 水路の影
夜の水路は、街灯に照らされて銀色の波を揺らめかせていた。
雨上がりの水面には、溝に落ちた落葉と、過去の影が映る。
ライネルは沈黙のまま、水面を睨むように歩を進めた。
石畳に響く足音は、自らの心拍のように重く、暗い影を引きずっていた。
「ほんとにこんな場所に秘密があるのかね?」
シルヴィアは足元を軽やかに飛び跳ね、肩をすくめる。
「ちゃらんぽらんだね、相変わらず」
マリーベルは低く唸り、火花のように言葉を吐いた。
「馬鹿を言うな! 足を踏み外せば、そのまま水路に落ちて終わりだ。集中しろ!」
アリアは後方からそっと追い、寂しげに囁いた。
「……でも、ライネルさん、危険はちゃんと分かってますよね?」
ライネルは無言で頷く。彼の暗い視線は、水面に映る小さな動きも見逃さなかった。
水路の陰影は、過去と未来の間に潜む秘密の象徴のように、四人の心を試している。
突然、影が動いた。水面の端、暗がりに紛れて盗賊団の一味が潜んでいる。
シルヴィアが軽く笑う。
「ふふ、来たね。演出も悪くないじゃない」
マリーベルは炎のように叫ぶ。
「気を抜くな! 奴らは容赦しない!」
ライネルは静かに前に出て、重い声で指示する。
「アリアは依頼人の安全を確保しろ。俺たちは水路を渡る」
シルヴィアは肩をすくめ、ひょいと水路を飛び越える。
マリーベルは拳を握り、岩のように地面に踏み込んだ。
盗賊団との遭遇は瞬時に緊迫する。
水しぶきが舞い、火花のような怒号が飛ぶ。
アリアは魔法の祈りで仲間を守り、シルヴィアは風のように盗賊の間をすり抜け、マリーベルは炎の拳で威嚇する。
ライネルは土の力で足場を固め、仲間たちの背を守る。
その時、水路の奥から、奇妙な声が響いた。
「……合言葉を知らねば、進むな」
薄暗がりの中、影のように現れたのは、かつて四葉亭で交わした秘密の援助者だった。
ライネルは眉を寄せ、低く呟く。
「……この者が援助者か。だが、なぜここに?」
シルヴィアはくすくす笑う。
「ひねりだね、なかなか面白い」
マリーベルは怒りを抑えきれず、鋭く問い詰める。
「情報をよこせ! これ以上時間を無駄にしないで」
アリアは静かに合言葉を口にし、援助者は微笑む。
その瞬間、水路の影から新たな道が開ける。
「賞賛を受けるのはまだ先だ。だが、進む価値はある」
その声に従い、四人は次の段階へと歩を進める。
水路の暗闇は、ただの陰ではない。枷であり、試練であり、同時に真実への道標だった。
夜風が水面を揺らし、赤い残り火のような光が水路に映る。
盗賊団の影、援助者の導き、そして未知の謎――
全てが、探偵団を次の展開へと押し進める力となっていた。




