第0063話 豪奢な装いの未亡人
霧に包まれた石畳の路地裏。
街灯の淡い光が、濡れた石の表面に反射し、淡い橙色の光の筋を描いていた。
その路地の奥に、ひっそりと佇む酒場「四葉亭」がある。
木組みの壁に灯るランプの光は、扉を開ける者の顔を柔らかく染め、酒と木の香り、古い紙の匂いが混ざり合っていた。
主人公は重い足取りで扉を押す。
きしむ木の音と共に、暖かい空気が流れ込む。
目の前にはカウンターがあり、四人の仲間がそれぞれの居場所に落ち着いていた。
土属性の騎士ライネルは、慎重に周囲を見渡し、暗い瞳を伏せたまま微動だにしない。
風属性の女盗賊シルヴィアは、軽口を交えつつ、周囲にある些細な動きを見逃さない。
火属性の魔法使いマリーベルは、苛立ちを炎に変えて指先で弾き、じっと前を見据える。
水属性の僧侶アリアは、窓の外を静かに見つめ、誰にも気づかれないように寂しさを抱えていた。
酒場の奥で、木の床がかすかに軋む。
小さな足音が響く。
情報屋が耳打ちした。
「気をつけろ。赤ん坊のことも忘れるな。生まれた瞬間から、この街の未来を知っているらしい」
主人公は微かに息を吸い込み、封筒を手に取る。
中には古びた書類と写真、小さな紙片。
文字のひとつひとつに、何か隠された意味があるように見えた。
その夜、四葉亭の扉が再び開く。
豪奢な装いの未亡人が、震える手で封筒を置き、声を絞り出す。
「どうか……夫を見つけてください」
主人公はゆっくりと頷き、仲間たちに視線を向けた。
火の熱、土の重み、風の気配、水の静けさ。
それぞれの元素が、心に刻まれる決意の重みを伝えていた。
蟻の国の小人たちが、壁の隙間からせわしなく動き、情報網を整える。
見えない糸のように、街全体の情報が小さな手によって結ばれていく。
主人公は仲間たちに静かに告げた。
「明日から、街の裏をくまなく見て回ろう」
暖炉の炎が揺れる。
揺らめく光は、四人の影を大きく、時には歪ませ、時には寄り添わせる。
その光景に、誰もがそれぞれの覚悟を重ねて見つめていた。
夜は深まる。
外の霧はますます濃くなり、街の輪郭をぼんやりと包み込む。
けれど、四元素の仲間たちの心は、揺るぐことはなかった。




