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第0059話 厚い暗雲
火の雨の儀式を阻止した女と四人の探偵。
だが、空にはまだ厚い暗雲が立ち込め、風が鋭く街を揺らしていた。
遠くから、かすかに赤ん坊の声が聞こえる。
その声は小さく、かすれ、しかし確かに彼らの耳に届いた。
「……これは……?」
女は声の主を探すように立ち止まる。
胸に残る過去の痛みと、これからの戦いへの緊張が交錯する。
ライネルは盾を高く掲げ、周囲の影を警戒した。
「気を抜くな。まだ何かある」
剣士の低い声には、鋭い警告が込められていた。
マリーベルは拳を握り、炎の気配を指先に宿す。
「俺たちが守るべきは、この声……そして女だ」
赤い炎の光が、森の闇に微かに揺れる。
シルヴィアは短剣を握り直し、肩をすくめて笑みを浮かべる。
「嵐の前の静けさってやつか。楽しくなってきたな」
その軽口に、仲間たちの緊張が少し和らぐ。
アリアは女の手を握り、そっと祈りをささやく。
「どうか、この声が導く未来が、穏やかでありますように……」
赤ん坊の声は、嵐の前に光を差し込むかのように、森と街を包む。
女は胸の奥で、恐怖と覚悟が交錯するのを感じながら、一歩踏み出した。
――嵐の前の静寂の中で、すべての決意が、未来への第一歩となろうとしていた。




