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第0055話 儀式は、もう始まろうとしている
夜の森に湿った風が吹き抜ける。
女と四人の探偵は、火の雨の儀式が行われると噂される古代の遺跡へと歩を進めていた。
樹木の影が長く伸び、石の道は苔で滑りやすく、足元に注意を払わなければならない。
「ここが……噂の場所か」
ライネルが低く呟く。盾を前に構え、警戒を緩めない。
マリーベルは炎を手にまとわせ、苛立ちを押し込めるように空気を切った。
「なんだか気持ち悪いほど静かね……油断できない」
シルヴィアは軽く肩をすくめ、短剣の刃先をちらつかせる。
「静かすぎると、ろくでもないことが起こるもんだよな」
その視線は遺跡の隅々に向けられ、いつ襲われても対応できるよう準備を整えていた。
アリアは女の手を握り、祈りをささやく。
「どうか……何も起きませんように」
遺跡の中央に近づくにつれ、空気が変わった。
微かに香る硫黄、湿った石の冷たさ。
天を覆う暗雲の隙間から、赤い光がちらりと差し込む――
まるで炎の雨の前触れのようだった。
女はその光を見つめ、胸の奥でかすかな恐怖と、覚悟を同時に感じていた。
――火の雨の儀式は、もう始まろうとしている。




