第0005話 決戦
雷鳴が轟いた。
廃礼拝堂の外、黒雲が渦巻き、天が裂けるように稲光が走る。その下で、白鷲騎士団とライネルたち四人は激突した。
「かかってこい!」
ライネルの大剣が振り下ろされ、騎士たちの盾を砕く。鈍く重い音が響き、彼の足元には石の破片が散った。
「さぁ、踊ろうか!」
シルヴィアは身軽に駆け抜け、敵の背後を突く。短剣が閃き、鎧の隙間を正確に切り裂いた。
「ひっくり返れ!」
笑いながら蹴り飛ばした騎士が、泥にまみれて倒れる。
「許さない!」
マリーベルの杖から炎が噴き出す。火柱が夜を焦がし、敵陣を呑み込んだ。鎧の白鷲が黒煙に包まれ、悲鳴が夜風に溶けていく。
「正義を掲げる騎士だなんて笑わせる! 貴様らはただの影の下僕!」
アリアは祈りの言葉を唱え続けていた。白く柔らかな光が仲間たちを包み、深い傷を塞ぐ。だが彼女の額には汗が滲み、手は震えていた。
「みんな……無事で……お願い……」
青年騎士は泥を踏みしめ、金の剣を構えて進み出た。
「雑魚を蹴散らすのはもう飽きた。貴様だ――土の騎士!」
その瞳は冷たい光を宿し、剣先には雷の魔力が踊っている。
「望むところだ」
ライネルが剣を振り上げる。二人の刃が激しくぶつかり合い、火花が散った。重厚な衝撃が地を震わせ、仲間たちは思わず身をすくめた。
剣戟は幾度も交錯し、どちらも退かない。だが青年騎士はふと冷笑を浮かべ、低く呟いた。
「……影はお前たちを脅威と見ている。だが、俺には理解できん。なぜこんな弱者が」
その瞬間、礼拝堂の奥から――小さな泣き声が響いた。
「……赤ん坊?」
アリアが顔を上げる。
祭壇の裏から、布に包まれた赤子が転がり出てきた。いつの間にか忍び込んでいたのか、あるいは“影”が置いていったのか。
赤ん坊の泣き声は次第に強くなり、不思議なほど澄んだ響きを持っていた。
その瞬間、廃礼拝堂を包む闇が震え、炎も風も、そして剣戟の響きさえも一瞬だけ静まり返った。
「な、何だ……この声は……!」
青年騎士が顔を歪める。握る剣が震え、雷光が掻き消えた。
アリアは息を呑む。
「……これは、聖なる守りの声……?」
幼子の泣き声は光を帯び、白い波紋となって広がっていった。戦場の騒音を押しのけ、影の気配を裂くように。
ライネルは剣を構え直し、叫んだ。
「これが弱者の声だ! 守るべき命の声だ! ――お前たちの正義には、決して届かぬ!」
青年騎士が動揺した隙を突き、ライネルの大剣が弧を描いた。
金の剣は弾かれ、青年騎士は膝をついた。
「ぐっ……!」
シルヴィアが背後に回り、短剣を首筋に突きつける。
「ほら、お坊ちゃん。これ以上続ける?」
マリーベルの炎が揺らめき、アリアの光が仲間を照らす。
赤ん坊の泣き声がなおも響き続け、敵兵たちは剣を取り落として膝を折った。
もはや勝敗は明らかだった。
だが青年騎士は、苦しげに吐き捨てる。
「……覚えていろ。“多頭の影”は……お前たちを決して許さぬ……」
そう言い残し、撤退の合図を叫んだ。
騎士団は敗走し、雨に濡れた森に消えていった。
残されたのは、疲弊しながらも立ち尽くす四人と、祭壇の前で泣き続ける赤ん坊だった。
アリアはそっと抱き上げる。幼子は温かく、小さな手で彼女の指を掴んだ。
「……この子は一体……?」
その問いに答える者はいなかった。だが赤ん坊の声が、この戦いの意味を示しているかのように思えた。
影は確かに存在する。
だがその闇に抗う光は、こんな小さな命にも宿っている――そう信じさせるだけの力が、その声にはあった。




