第0046話 幻影
雨上がりの朝、街の石畳には昨夜の名残が光っていた。
四葉亭を出たライネルたち一行は、女を囲むように歩いていた。
「……さっきの矢のこと、まだ気になるわね」
マリーベルが苛立たしげに吐き捨てる。
「気になるも何も、狙いはあの女だろうよ」
シルヴィアは肩をすくめ、視線をひそめた。
「路地の影から、ずっとつけてきてやがる」
その言葉と同時に、鉄靴の音が響いた。
角を曲がった瞬間、黒いフードの男たちが立ち塞がる。
手には剣と鉄槌。無言のまま一斉に襲いかかってきた。
「来たか……」
ライネルは盾を構え、女を背に庇った。
マリーベルが詠唱し、炎の閃光を走らせる。
路地の石壁が赤く照らされ、暗殺者の影が揺らめいた。
だが敵は驚くほど素早い。炎を避け、剣を繰り出し、ライネルの盾を叩く。
アリアは必死に女を連れて後退しながら祈りを唱え、癒やしの光を放つ。
「……暗殺だなんて、ほんとにやってくるとはね!」
シルヴィアが短剣を抜き、敵の背後へと躍った。
その動きは風のように軽やかで、暗殺者の喉元へ刃を迫らせた――。
だが。
刃は肉を裂かず、石壁に空振りした。
そこには人影ではなく、幻のように消えた影が残っていた。
「幻影……?」
シルヴィアが目を細める。
ライネルは低く呟いた。
「……奴ら、本気で俺たちを試してきている」
敵は完全に消えたわけではない。
それは、より深い闇へと誘うための“布石”にすぎなかった。




