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第0043話 火の雨
四人は顔を見合わせた。
ライネルが椅子をきしませて立ち上がり、怯えた女に歩み寄る。
「記憶を……失った?」
彼の声は重く、硬い。
女は首を振りながら、泣き出しそうな声を絞り出した。
「気がついたら、路地裏に倒れていて……名前も、生まれも、なにも……ただ、
誰かに追われていることだけはわかるの」
アリアの胸がちくりと痛んだ。彼女はそっと手を差し伸べ、女の冷えた手を握った。
「大丈夫です。ここは四葉亭……わたしたちがあなたを守ります」
その言葉に女は小さく頷いたが、その直後――。
再び扉が開いた。
今度は濡れ鼠のような男が入ってきた。
立派な外套に紋章を縫い込んだ肩掛け――商人ギルドの使者である。
彼はあたりを見回し、ライネルたちの卓を見つけると、
ためらいなく歩み寄った。
「四葉亭の探偵団……頼みたい件がある」
声は硬く、急を告げる響きに満ちていた。
「三日後、この街に――火の雨が降る、と予言された。
もし真実なら街は灰になる。調べ、阻止してほしい」
マリーベルが舌打ちする。
「火の雨? おとぎ話かよ」
「いや」
ライネルは女と使者を交互に見た。
「……どうやら、おとぎ話じゃ済まないようだな」
怯えた女の震えと、商人ギルドの警告。
二つの影が重なったとき、四葉亭の夜は――事件の幕開けを告げていた。




