第0308話 誰も傷つけず、何事も起こらない夜
夜の四葉亭には、静かな暖かさが戻っていた。
昨日までの不安、恐怖、疑念――嫌な感情は、もはや影としてしか存在しない。
ライネルは扉の前に立ち、遠くの街灯の光を見つめる。
「すべての誤解は解かれた。
足跡も、合図も、アリバイも――
誰かの意図的な記号だったことが、明らかになった」
シルヴィアは軽く笑い、カウンターに肘をつく。
「ふぅ……やっと疑いの嵐が過ぎたって感じね。
もう、風のように吹き飛ばす必要もないわ」
マリーベルは杖を手元に置き、安堵のため息をつく。
「火のように燃え盛った不安も、今は消えた。
残ったのは、清らかさだけ」
アリアは小さく頷き、柔らかい声で言う。
「恐怖や猜疑も、時には私たちを守るための感情でした。
しかし今は、祝福に変えることができる」
■ルシアンと兄嫁
ルシアンは深く息を吸い、緊張でこわばった肩を落とす。
「……兄嫁に、もう迷惑はかけません。
昨夜の足跡や合図は、全て誤解だった。
でも、事実を明らかにできたから、胸の中が軽いです」
静かに現れたエレナ――兄嫁――も、微笑を浮かべる。
「ルシアン、恐れる必要はなかったのよ。
あなたの無垢は、もう証明されているわ」
二人は、言葉にする必要もなく、互いの清らかさを感じ合った。
何事も起こらない――
ただその事実が、二人の間に静かな祝福を落とす。
ライネルはその様子を見つめ、剣を軽く収める。
「――目標達成。
誤解の連鎖を断ち、無垢を証明した」
■四葉亭の夜
シルヴィアはカウンターに座り、グラスの中の水面を覗き込む。
「誤解が解けると、人の心も軽くなるものね。
風のように、嵐が通り過ぎたあとって感じ」
マリーベルは火の光を揺らしながら言う。
「感情も、制御できることがあるのだと分かったわ。
恐怖や疑念も、証拠と真実で解くことができる」
アリアは微笑み、窓の外の月を見上げる。
「水のように流れる嫌な感情も、祝福の光で変えられる。
今宵は、心を洗う夜です」
ライネルは剣を背に置き、深く息をついた。
「これで、四葉亭も再び平穏を取り戻す。
誰も傷つけることなく、全ての誤解は消えた」
■嫌な感情の祝福
四人はグラスを掲げ、静かに乾杯する。
「嫌な感情も、今日という日を迎えるためにあった――
そう思えば、祝福に変わる」
ルシアンとエレナも同席し、互いの安堵を感じながら微笑む。
過去の誤解、足跡、合図――
全ては、清らかさを際立たせるための布石だったのだ。
マリーベルが杖を軽く掲げ、火花を散らす。
「嫌な感情よ、ありがとう。
私たちに真実を見せてくれたのだから」
シルヴィアは短剣を小さく振り、風を起こす。
「疑念よ、さようなら。
もう、怖がる必要はないわ」
アリアは静かに手を合わせる。
「祝福の光よ、私たちに満ちてください。
すべての誤解を洗い流して」
ライネルは深くうなずき、夜空の月を見上げた。
「これで、全てが終わった。
兄嫁と夫の弟も、無事に過ごせる夜だ」
■章の終わりに
夜の四葉亭には、安らぎの空気が流れる。
誤解、恐怖、疑念――嫌な感情は祝福に変わり、
足跡、合図、アリバイは静かに真実の証となった。
――これが、“誤解と無垢”の物語の結末。
誰も傷つけず、何事も起こらない夜。
しかしその静けさこそ、何よりも確かな無垢の証明であった。




