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第0301話 自分の痛みを、自分で背負い直す勇気です……!

森の奥は、夜ではなく永遠の薄闇に閉ざされていた。


木々の影が折り重なり、空と大地、風と土の境界すら曖昧になっていく。

歩くほどに、世界は静かになり――音が消えていく。


シルヴィアが苦笑する。


「……やだね。音すら逃げ出す場所なんて」


「違うわ」


マリーベルが低く呟く。


「ここには、生きてる者の音が必要ないだけよ」


アリアは震える声で祈りを唱えていた。

だが祈りの言葉は空気に吸われ、形にならない。


最後尾のライネルだけが無言だった。


白い石は転がりながら道を示し、ついに――

黒い裂け目へ辿り着いた。


それは洞窟でも井戸でもない。

地面そのものが裂け、空気が吸い込まれるように渦を巻いていた。


その奥から聞こえるのは――


「来い……来い……契約者よ……救いを求める者よ……」


声が重なる。

老人の声、女の声、子供の声、そして死者特有の濁った声。


アリアが膝をつき、泣き崩れそうになる。


「この声……全部、祈り……救われたい者たちの声……!」


マリーベルが苛立ったように杖を叩きつける。


「救いを乞いながらこんな場所に沈むなら、最初から祈るなってのよ!」


シルヴィアが笑うが、その声は震えていた。


「火属性ってのは乱暴で助かるわねー……」


ライネルは裂け目に歩み寄り、剣の鞘で地面を叩く。


音が吸い込まれ、洞の内側から反響した。


〈問う。救いは欲しいか〉


声が問いの形を取った瞬間――

アリアが息を呑む。


「これは……契約術式……!

 答えた者の望みと魂が拘束される……!」


シルヴィアがマリーベルの腕を引き、冗談めかして囁く。


「怒りんぼ、絶対に答えちゃダメ。

 あんた短気だからすぐ『欲しい』って言いそう」


マリーベルは睨む。


「言わないわよ……そんな惨めな言葉」


だが次に響いた声は、


〈死者に触れたいか〉


すると裂け目の奥から――

石化した女の姿が現れた。


灰色の肌。泣き腫らした瞳。

声も発せず、ただ必死に手を伸ばしている。


アリアが叫ぶ。


「違う!彼女は生きたかっただけ……救われたかっただけ……!」


「救いじゃねぇだろ」


不意にライネルが呟いた。


いつになく感情を帯びた声だった。


「これはただの誘惑だ。

 苦しい者が望むものを突きつけ、思考を奪う――

 悪魔の契約の常套手段だ」


裂け目がざわりと揺れる。


〈抗うな。救いはすぐそこだ〉


ライネルは目を細め、


石を真っ二つに踏み砕いた。


瞬間、裂け目から悲鳴が上がる。


〈なぜ壊す!救済を拒むのか!〉


ライネルは剣を抜き、切っ先で闇へ突き立てる。


「救いは自分で選ぶものだ。

 囁かれて、奪われて、買うものではない」


声が怒りに変わる。


〈愚か者!苦しむ者は皆救いを望む!〉


「――救いじゃない」


アリアが立ち上がり、震えながら言った。


「救済って、誰かに神のように扱われることじゃない……

 自分の痛みを、自分で背負い直す勇気です……!」


その言葉に応えるように、光がアリアの手から零れ落ちる。


白ではない。

青く澄み、涙のように揺れる光。


〈感情が……祈りが……干渉する……!?〉


シルヴィアが笑う。


「ほらね。救済のプロ気取りは通用しないって」


マリーベルが炎を掲げる。


「燃やしていい?」


「まだだ」


ライネルが裂け目を押さえつけるように剣を構える。


闇は叫ぶ。


〈答えよ!救いは欲しいか!〉


その問いに――


四人は揃って答えた。


 


「――欲しくない」


 


裂け目が崩れ、叫びとともに消えていく。

石化した女の姿も霧のように消えた。


残ったのは土と静けさ。

それだけだった。


アリアが涙をこぼしながら呟く。


「……救われたいのに、

 救いを拒むなんて……変ですよね」


ライネルは静かに答える。


「変でいい。

 人間はいつも矛盾から始まる」


ほんの一瞬、誰も笑わなかった。

けれど次に歩き出した時、四人は迷いを失っていた。

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