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第0003話 暗殺の失敗

夜の森は、重苦しい沈黙に支配されていた。

 四人は息を潜め、木々の影から盗賊団の野営を見下ろしていた。粗末な天幕の周りには焚き火が揺れ、武装した男たちが酒をあおりながら笑っている。三十人という数は誇張ではなかった。


「……正面から挑むのは無謀だな」

 ライネルが低く呟く。

「なら、忍び込んで頭を潰すのさ」

 シルヴィアが白い歯を光らせ、短剣をくるりと回した。

「首領を仕留めれば、烏合の衆なんて散り散りになる」

「暗殺、か」

 マリーベルは鼻を鳴らす。

「私の炎でまとめて灰にした方が早い気がするけど?」

「駄目よ!」

 アリアが慌てて声を潜めた。

「村を巻き込んだらどうするの? 火は……怖い」

「ちっ、優等生め」


 結局、シルヴィアの提案に従うことになった。彼女が夜の闇に溶けるように進み、ライネルは盾役として近くまで護衛し、マリーベルとアリアは後方で待機する。


 ――だが、夜はあまりにも静かすぎた。


 シルヴィアが天幕の隙間から忍び込んだ瞬間、乾いた音が響いた。

 弦を引き絞る音。次いで放たれる矢。

「っ!」

 咄嗟に身をひねったシルヴィアの肩を掠め、矢が地面に突き立った。


「待ち伏せだ!」

 ライネルが叫ぶと同時に、焚き火が一斉に赤く燃え上がった。天幕の中から現れた盗賊の首領が吠える。

「来ると分かっていたぞ、間抜けども!」


 周囲の盗賊が一斉に剣を抜き、森は怒声と金属音で満ちた。シルヴィアが舌打ちしながら後退し、ライネルが盾で矢を弾き返す。

「どうして……気づかれてたの!?」

 アリアが震える声で叫んだ。

 その問いに答えるかのように、闇の中から拍手が響いた。


「実に見事な醜態だな」


 焚き火の光の中に、白鷲騎士団の青年騎士が姿を現した。磨き上げられた甲冑は、盗賊の血で汚れてもなお光を放っている。

「貴様らが下手を打つのは予想済みだ。盗賊団に先に通達しておいたのだよ。“別の連中が狙っている”とな」

 彼は冷笑を浮かべた。

「我らが敵を討つためには、囮が必要だったのだ。役立ってくれて感謝するぞ」


「卑怯者!」

 マリーベルの怒声が森を震わせ、炎が彼女の掌に灯る。

「最初から利用するつもりで……!」

「力なき者は利用される。それが世の理だ」

 青年騎士は剣を抜き、白鷲騎士団の兵が一斉に構える。


 ライネルの胸に怒りが込み上げた。だが冷たい理性がそれを押さえ込む。

「退くぞ!」

「何言ってんの! ここでやられたら笑いものよ!」

 マリーベルが食い下がるが、ライネルは鋭く言い放った。

「生き延びなければ勝負も何もない!」


 彼は盾で矢を受け止めながら仲間を守り、シルヴィアが素早く退路を探す。アリアは震える声で必死に癒しの祈りを捧げ、マリーベルは唇を噛みながら炎を後方に投げ放った。轟音と爆ぜる火花が夜を照らし、四人はその隙に森の奥へと駆け込んだ。


 後方で響く青年騎士の嘲笑が、耳に焼き付いた。

「敗北を知れ、寄せ集めの愚か者ども!」


 息を切らし、暗い森の中で立ち止まる。シルヴィアの肩から血が滴り落ち、アリアが慌てて治癒の光を注ぐ。

「……ごめん、私のせいで……」

「気にするな」

 ライネルは短く答えた。

「問題は、奴らが盗賊をも掌握しているということだ」


 マリーベルは拳を握りしめ、火花を散らす。

「絶対に許さない……あんな奴らに勝つまで、私は諦めない」

 シルヴィアも口元を歪め、苦笑した。

「いいね、悔しいけど燃える展開じゃないか」

 アリアは震える手を胸に当て、仲間を見回した。

「みんな……一緒にいるなら……きっと勝てるよね?」


 ライネルは剣の刃を見つめた。

 白鷲騎士団――それは彼らにとってただの敵対者ではなく、乗り越えるべき「対抗者」となったのだ。

「必ず叩き伏せる。奴らにも、盗賊どもにも」

 低い誓いの声が、森の闇に響いた。

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