第0296話 でも俺たちは、その変化に立ち向かえる
泡の丘は、夜明けとともに静かに消え去った。
雨に濡れた草の匂いが空気を満たし、世界は元通りの落ち着きを取り戻したかのようだった。
しかし、四人の仲間は知っていた――この世界の“泡”は、再びいつでも姿を現す。
四葉亭のカウンターに集まる四人。
ライネルは剣を脇に置き、窓の外の光を見やる。
「結局……あれは何だったんだろうな」
シルヴィアは軽く肩をすくめる。
「何って……あの泡と女の人形遊びでしょ?
でも、なんだか楽しかったな。
嫌な感情が現実に混ざるって、面白いじゃん」
マリーベルが火を指先で転がしながら笑った。
「楽しい、だと……?
私は怒りと恐怖で手が震えたっていうのに」
アリアは小さく微笑む。
「でも、皆それを乗り越えた。
怖いもの、悲しいもの、嫉妬や疑念……
すべてを直視したからこそ、心は少し軽くなったわ」
ライネルが頷く。
「そうだな。
嫌な感情を無視したり押し込めたりするんじゃなく、
受け入れることで力に変えられる」
青年ギルバートが再び現れ、深く礼をした。
「皆さんのおかげで、恐怖や混乱の中でも、
“何が真実か”を見極められるようになりました。
泡の丘で見たものも、もう怯えずにいられそうです」
その言葉に、四人は静かに賞賛の目を向ける。
シルヴィアは楽しげに笑った。
「ほらね、嫌な感情も祝福できるんだよ。
人は、見極める力を持ってるんだ」
マリーベルが短く息をつき、けれど微笑んだ。
「……まぁ、仕方ないわね。
私も、少しは納得した」
アリアは膝に手を置き、穏やかに呟いた。
「あり得ぬものが現れる世界でも、
私たちは選択できる。
嫌な感情も、恐怖も、希望も……全部、祝福してあげられる」
ライネルは剣を軽く叩き、視線を仲間たちに向けた。
「次に泡が現れても、俺たちはもう怖くない。
受け止め、立ち向かい、理解できる」
その時、酒場の外で泡の残り香がかすかに漂う。
柔らかい光を帯び、まるで小さな陸地が再び形を取りつつあるかのようだった。
シルヴィアが指をさす。
「見て、また始まるかもね。でも大丈夫。
今度は怖がらず、楽しんで迎えられる」
マリーベルが炎を消し、静かに笑う。
「ふん……ならば、準備万端ってところね」
アリアはそっと手を合わせる。
「祝福するんです。
恐怖も悲しみも、そして喜びも――すべてを」
ライネルは杖を地に突き、仲間たちを見渡した。
「世界は変わるかもしれない。
でも俺たちは、その変化に立ち向かえる」
泡は完全に沈み、丘は元の草地に戻った。
だが、彼らの心には、あの夜の記憶と、嫌な感情を祝福する力が残っている。
そして――
どこかで泡が膨らみ、陸地を押し上げるたびに、
この四人はいつでも、準備を整え、笑顔で受け入れることができるだろう。
嫌な感情は、もはや敵ではない。
それを受け入れ、理解する力こそが、真の力なのだ――。




