第0265話 言葉は刃にも、翼にもなる
雨の匂いが残る四葉亭。
街はまだ湿っていて、石畳の光沢が妖しく光る。
鐘楼の事件、墓に埋められた言葉、そして誤報――
すべてを経て、四人は今、事後の分析に取り掛かっていた。
マリーベルが腕を組み、鋭い目で資料を並べる。
「やれやれ、言葉ひとつで街をかき乱すなんて……。
魔法使いとしては、これは完全に“情報の暴走”ね」
ライネルが低くうなずく。
「情報も言葉も、制御を失えば刃になる。
だが、刃を恐れて避けるのではなく、理解して扱うことが肝心だ」
シルヴィアが肩をすくめ、紙切れをひとつ取り上げる。
「結局、墓から掘り出した“言葉”はどうして暴走したの?」
「意図と結果のずれだ」
ライネルの声は重い。
「死者の声として呼び出された言葉は、
聞き手の解釈や感情、周囲の状況によって意味を変える。
つまり、“人間が想定した結果”と“現実の結果”が違った」
アリアが青い瞳を伏せながら手を組む。
「……じゃあ、嫌な感情が湧いたのも、
言葉そのものが悪いんじゃなくて、私たちの理解不足だったの?」
マリーベルが炎を指先に灯し、頷く。
「その通り。言葉を恐れるのではなく、読み解く力が必要なの」
ライネルは剣を傾け、落ちた石の破片を手に取った。
「今回の成功は二つある。ひとつは、墓に眠る“言葉”を安全に再封印したこと。
そしてもうひとつは、我々自身が“誤解に反論する力”を手に入れたことだ」
シルヴィアが軽口をたたく。
「つまり、怒ったり怖がったりしても、
結局は“理解と工夫”で乗り切れたってことね」
ライネルは苦笑いを浮かべる。
「工夫は、技術だけじゃない。観察力、連携、そして冷静さだ」
マリーベルが紙を振りながら指摘する。
「具体的にはこうよ。
墓から掘り出された言葉が動き出す前に、
風の流れ、水の浄化、炎の鎮圧で“異変の兆候”を封じた」
「つまり、元素の力を最大限に活用したんだな」
ライネルの言葉に、アリアが微笑む。
「私の祈りも、その補助だった……」
沈黙の後、シルヴィアが少し真面目な顔になる。
「でもさ、結局“嫌な感情”は消えたの?」
「消えたわけじゃない。
だが、受け入れて活かすことはできる」
ライネルが石の破片を掌に載せ、指で撫でる。
「恐れや不安、怒り……これらは避けられない。
だが、それを理解し、行動の指針に変えることが、
“反論”ということだ」
マリーベルが笑う。
「なるほどね、嫌な感情に反論するって、
物理的に戦うんじゃなくて“知恵と判断で乗り越える”ことなのね」
アリアも頷く。
「言葉も感情も、人間と非人間の境界も、
“間違い”ではなく、学びの種だったんだわ」
シルヴィアが片手を上げ、乾いた笑いをひとつ。
「ふう、結局あたしら、またちょっと賢くなったってことね」
ライネルが最後に、四人を見渡し言葉を添える。
「今回の事件は終わったが、覚えておけ。
言葉は刃にも、翼にもなる。
扱いを誤れば災いを呼び、理解すれば救済を生む。
だからこそ、我々は“嫌な感情”にも向き合い、反論できる力を持つ」
外では雨が止み、街の石畳に朝の光が差し込む。
四人は静かに杯を傾けながら、
過ぎた混乱と、得た教訓を噛みしめていた。
雨の匂いに、少しだけ希望が混じっている。
――不吉なものも、学びに変えることはできる。
それが、今回の“成功の工夫と解説”だった。




