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第0218話 アモン

 その夜の調査依頼は、奇妙なものだった。

 アルトが求める“仇”の名はどこにも存在しなかった。

 記録も、証言も、墓標すらない。

 ただひとつ、古い歌にその名が残るだけ――

 “英雄の踵を射抜いた男、アモン”。


 だが、その英雄は何百年も前に死んでいる。


 マリーベルが古文書をめくりながら呟く。

「おかしいわね。アモンって、死者を導く“使徒”の名前よ」

 ライネルが頷く。

「つまり、アルトの仇は……死者そのものか」

 沈黙が、再び降りた。


 アリアはその沈黙に小さく祈りを落とす。

「ならば、これは“死者の依頼”かもしれない」


 外では霧が濃くなり、夜がゆっくりと形を失っていく。

 四葉亭の窓からこぼれる光だけが、世界と幻の境を照らしていた。


 アルトはその光の中で立ち尽くす。

 彼の手が震えている。

 剣を握る手ではなく――

 自分の存在を確かめるために、宙を掴む手が。


「……もし俺が幻でもいい。

 奴をこの手で斬るまでは、消えられない」


 ライネルはその決意を見据え、ゆっくりと立ち上がった。

「ならば、我らが導こう。“四葉亭探偵団”の名において」


 四人の影が立ち上がる。

 シルヴィアの外套が風を孕み、マリーベルの杖に小さな炎が灯る。

 アリアの祈りが夜気を静め、ライネルの剣が鞘鳴りを立てた。


 アルトは深く息を吸う。

 冷たい霧が肺を満たし、心臓の鼓動が遠のく。

 ――その瞬間、

 ランプの火が、彼の頬を透かして揺れた。


 マリーベルが呟く。

「ねえ……いま、一瞬、あんたの顔が光を通した」


 アルトは応えず、扉を開いた。

 霧の外で、誰かが笑っている気がした。


 その笑い声は、彼の亡き父のものに似ていた。

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