第0210話 曖昧さを祝福すればいい
雨はやんでいなかった。
それは最後の晩まで、途切れることなく降り続けた。
四葉亭の外、石畳は銀色の川になり、瓦の隙間から音もなく流れていく。
酒場の中は静かだった。
狂言回しの四人は、それぞれの席に座り、沈黙を抱え込んでいた。
騎士ライネルは剣を磨き、火の魔法使いマリーベルは煙草の灰を落とし、女盗賊シルヴィアは窓の外の雨を見つめ、女僧侶アリアは小さく祈っている。
その夜、四葉亭に、最後の訪問者が現れた。
傘をたたみ、濡れた外套を滴らせながら入ってきたのは、あの夜に現れた依頼人だった。
彼女は静かに四人の前に立ち、濡れた髪を払った。
「あなたたち……答えは出したの?」
ライネルは無言で頷く。
「出した……だが、それは終わりではない」
シルヴィアが笑った。
「雨の中では、答えなんて無意味よ。すべてが溶ける。真実も嘘も、愛も憎しみも」
マリーベルが頷く。
「そう、雨は嫌な感情を洗い流す。そして残るのは……赦しだけ」
アリアがそっと立ち上がり、傘を開ける。
「赦し……それは、嫌な感情の祝福です」
彼女は依頼人に差し出した。
「あなたも、そうなさってください」
依頼人は微笑み、傘を閉じた。
「ありがとう……でも、私はもう、誰を殺したかも誰を愛したかも覚えていない」
雨がその答えを覆い隠すように、静かに降り注ぐ。
そして四葉亭の外、街はまた、沈黙に包まれた。
ライネルは剣を鞘に収め、窓辺に立った。
「誰を殺したのかも、誰を愛したのかも――雨がすべてを曖昧にしていく」
シルヴィアは微笑んだ。
「じゃあ、私たちは……その曖昧さを祝福すればいい」
マリーベルは火を灯し、アリアは静かに祈る。
四人の影が、雨の中で溶けていった。
雨音が、彼らによる今回のエピソード
最後のページを洗い流す。




