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第0207話 正義の裏側
雨はやんでいなかった。
ただ、その音は変わった。静かな打ち付けから、滴が屋根を滑り落ちる音へ。
四葉亭の中、燭台の灯は揺らぎ、影は揺らぎ、真実もまた揺らいでいた。
ライネルは剣を背に置き、依頼書を広げる。
そこには昨日と同じ言葉が記されていた。
《もし私が死んだら、犯人は私自身。だがそれも嘘。》
「嘘だ、真実だ。どちらでもいい。だが、これは確かに誰かの手による罠だ」
ライネルの言葉は低く、だが確かな決意を含んでいた。
シルヴィアが杯を掲げる。
「罠? いや、それは“問い”だと思うわ。私たちに突きつけられた問い。誰が殺し、誰が愛したのか――それを問う」
マリーベルは煙草の火を消し、灰を落とす。
「問いか……私ならこう答える。嫌な感情は、正義の裏側にある」
アリアは黙って十字を切った。
「私は……赦しを選びます」
その声は静かで、しかし重く響く。




