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第0204話 シルヴィアの“裏返し”
雨は夜を引き裂くように降り続けていた。
四葉亭の屋根を打つ音は、鼓動のようであり、死者の囁きのようでもあった。
その中で、酒場は静寂を破る声と、湿った空気に満ちていた。
「影は消えない。」
ライネルが言った。
鎧の金属音が微かに震え、深く響く。
「影は記憶。記憶は罪。罪は、赦されない限り形を変え続ける」
雨音の合間に、窓の外から低く笑う声がした。
「……騎士、あなたはまだ自分を赦せないのね」
それは、第三章で現れた“影のシルヴィア”だった。
扉が開き、黒い外套を翻して彼女が入ってきた。
本物のシルヴィアと瓜二つの姿。
だが瞳の奥に潜む深い闇が、それを否定していた。
「……おまえは誰だ」
ライネルの声が低くなる。
「私? 私はシルヴィアの“裏返し”よ」
影のシルヴィアは微笑む。
「そして私は、あなたたちに待ったをかけに来た。真実に、罪に、そして愛に」
アリアは震える手で十字を切る。
「神よ……赦しを、与えたまえ」
だがその祈りは、影の笑みに飲まれた。
影のシルヴィアは言った。
「赦しは幻想。幻想は、戦いを止めない」




