第0019話 影の探偵
霧深い路地の奥から、足音とは違うリズムの気配が迫ってきた。
ライネルが立ち止まり、周囲を警戒する。
「……奴だ」
低く呟くと、四人は互いに目配せした。
現れたのは、夜の街で名を知られる影の探偵――ドルグだった。
黒い外套に身を包み、瞳だけが光を反射して鋭く光る。
「ふふ、君たちも来ていたか」
ドルグは微笑む。だがその微笑みに、敵意が潜んでいた。
「あなたは……この事件に関わっていたのか?」
マリーベルが炎を指先に宿し、立ち向かう。
「邪魔をするつもりなら容赦はしない!」
シルヴィアは影に紛れ、軽く笑った。
「楽しみが増えたわね。読み合いの相手が増えたのだから」
ドルグは一歩踏み出すと、周囲の空気が微かに揺れ、時間がずれるように感じられた。
足跡は逆に、跳ねるように変化し、四人の前方に迷路を作り出す。
「くっ……時間を操作している」
ライネルが呟き、手を差し伸べる。視線で足跡の逆行パターンを追う。
マリーベルは炎を高め、周囲を焼き払うように手を振る。
「これで逃げられると思うな!」
シルヴィアは軽やかに路地を駆け抜ける。
「逆行の罠も読める。油断しなければ大丈夫よ」
アリアは両手を合わせ、冷静に周囲を観察する。
「焦りは禁物……全てを見極めなければ」
四人とドルグは、時間操作の迷宮の中で追いかけ、追いかけられる戦いを繰り広げた。
足跡は折れ曲がり、時に過去のものと重なり、時に未来のように見える――視覚と感覚の錯覚が交錯する。
ライネルは冷静に計算する。
「この足跡、意図的に操作されている……逆行の角度や深さが、一定のパターンを示している」
シルヴィアは口元を吊り上げる。
「ほらね、読み合いの勝負は私の得意分野よ」
マリーベルは短く息をつき、炎を鎮める。
「でも、敵もただの人間じゃない……この戦いは長引きそうね」
アリアは小さく頷く。
「全ての情報を見逃さないこと。逆行の痕跡は、真実への手掛かりになるはず」
ドルグが一瞬の隙に消え、次の瞬間、逆行した足跡の先に現れた。
四人は息を呑み、互いに連携して追跡を続ける。
霧の中、石畳に刻まれる逆行の足跡。
時間を操作する敵との追跡戦は、街全体を迷宮に変え、
探偵団は一歩も引けない状況に追い込まれていた。