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第0171話 四人の議論の熱

 翌日、四葉亭の奥座敷。

 ライネルたちは、昨夜の遭遇戦を反芻しながら机を囲んでいた。

 木の卓上には羊皮紙が広げられ、散乱する文字と符号が、四人の議論の熱を映している。


 シルヴィアが指で叩いたのは、昨夜敵が口にした「合言葉」だった。


「なぁ、考えてみなよ。あの連中、ただの賊にしてはやけに統率が取れてた。

あれってつまり、合言葉を持つ“組織”の一員ってことだろ?」


 マリーベルが腕を組み、眉を吊り上げる。

「合言葉を使えば、潜入できる可能性がある……か。

でも危険すぎるわよ。」


 ライネルは深く頷き、重い声を出した。

「だが他に手立てはない。

虚構に立ち向かうには、まず虚構に身を投じねばならぬ。」


 アリアは胸の前で祈りの珠を握り、寂しげな眼差しを向ける。

「……でも、それって“落差”ですよね。

人を救いたい理想のために、あの人たちと同じ偽りを

纏わなければならないなんて。」


 沈黙が流れる。だが、この苦い矛盾こそが突破口だった。


 ――その夜。


 一行は街の外れにある廃墟で、組織の集会を密かに偵察した。

 覆面の男たちが火を囲み、合言葉を繰り返す声が夜空にこだまする。

 そこでライネルが小さく息を吐き、仲間たちに合図した。


「始めるぞ。枷を打ち破るのは、我らの工夫だ。」


 シルヴィアが先陣を切り、軽妙な舌で合言葉を投げかける。

 マリーベルは火を操り、暗闇にまぎれる幻を作り出し、敵の視線を逸らす。

 アリアは小さな祈りを紡ぎ、彼らの心を落ち着かせる。

 そしてライネルは剣を鞘に納めたまま、虚構を睨み据える。


 ――まるで、真実そのものを刃に替えるように。


 敵は一瞬の錯覚に陥った。

 「目撃者の愚かな錯覚」がかつて犯人のアリバイを成立させたように、

今度は彼らが虚構を仕掛け、敵の信頼を揺るがせたのだ。


 組織の頭目が叫ぶ。

「なぜだ……!合言葉を知っているのに、貴様らは仲間ではない……?」


 ライネルは静かに答えた。

「虚構に頼る者は、いずれ真実に足を掬われる。錯覚はお前たちを救わぬ。」


 その場は混乱に包まれた。

 虚構と現実の境界が崩れ、組織の結束は瓦解していく。

 やがて逃げ散る者、剣を投げ出す者が続出し、ついには頭目も捕縛された。


 アリアが安堵の息をつき、涙を拭う。

「……やっと、嫌な感情に反論できたんですね。

命を売買するなんて、そんな虚構はもう許されない。」


 マリーベルがにやりと笑う。

「賞賛はあとで山ほど浴びればいい。まずは証拠を押さえなきゃ。」


 シルヴィアが肩を竦めつつも、どこか誇らしげに言った。

「やれやれ、暗い騎士様に付き合って正解だったかもね。」


 ライネルは答えず、ただ夜空を仰いだ。

 そこには虚構ではなく、確かな星々の光が瞬いていた。

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