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第0162話 血痕や足跡は嘘をつかない
夜明け前の街は、まだ薄暗く湿っていた。
石畳には霧がまとわりつき、鐘楼の音が遠くでこだまする。
騎士団の詰め所から呼び出された探偵団は、城門外れの山道へと足を運んでいた。
そこに転がるのは、一人の若い騎士の亡骸。鎧は胸の部分が裂け、血に濡れていた。
「……心臓がない」
ライネルが低く呟く。
鎧の下、抉り取られた跡が赤黒く口を開けていた。
マリーベルは顔を歪め、炎のように怒りを燃やす。
「許せない……人の命を、まるで薬草のひとつみたいに扱って……!」
アリアはそっと両手を胸に組み、静かに祈った。
その肩は小さく震えている。
「……こんな死に方、あまりに寂しい……」
シルヴィアは逆に鼻を鳴らし、足元の泥を蹴った。
「まあまあ、死体はしゃべらないけど……血痕や足跡は嘘をつかない。
探偵団のお仕事の出番だね」