160/200
第0160話 無言の合図
奥のテーブル。
そこに腰掛けていたのが、四葉亭の常連にして「探偵団」と呼ばれる奇妙な四人だった。
土の騎士ライネル。
背筋を伸ばし、暗い影をまとった眼差しで、商人を射抜く。
風の盗賊シルヴィア。
杯をくるくる回しながら、「面白くなってきたじゃないか」と口笛を鳴らす。
火の魔法使いマリーベル。
眉間に皺を寄せ、すでに小さな火花を指先に散らしている。
水の僧侶アリア。
心配そうに身を乗り出し、ラウルの手をそっと握る。
四人は視線を交わし、無言の合図で立ち上がった。
「俺は確かに見たんだ! あの騎士を刺したのは――黒衣の医師、ハンス博士だ!」
ラウルは叫ぶ。
「けれども……」ライネルが低く唸る。
「博士はその時刻、城下町の薬師組合で会議に出ていた。十人以上が証言している」
「証言が証言を食い合ってるわけね」シルヴィアが口角を上げる。
「まるで笑い話だ」
マリーベルは苛立ったように杯を叩きつけた。
「じゃあこいつは嘘をついてるって言いたいの? それとも……夢でも見てたっての?」
「夢じゃない……俺は確かに見たんだ……!」
ラウルの声は震え、涙に濡れていた。