159/172
第0159話 ラウルと名乗る商人
石畳の冷たい路地裏に、夜霧がまとわりついていた。
その霧を払いのけるように、木の扉を乱暴に押し開ける音が響く。
酒場「四葉亭」。
炎のランプに照らされた店内は、夜ごと人々の声と笑いと、
時に涙の混じる物語で満ちていた。
ラウルと名乗る商人は、肩で息をしながら中に転がり込んできた。
頬は蒼白で、背に担いだ革袋は泥にまみれている。
「た、助けてくれ……! 俺は見たんだ、殺された騎士を……!
いや、殺した奴を……!」
客たちのざわめきが静まる。
四葉亭の女将アシュレイが、落ち着いた声で彼を席へと導いた。
「まあまあ、落ち着いて。水を一杯。
……さて、あんた、誰を見たって?」