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第0148話 雷公の生き肝の紋
奥へ進むにつれ、壁に刻まれた奇怪な紋章が目に入った。
稲妻を模した曲線、その中心に描かれる黒い臓腑のような意匠。
「雷公の生き肝の紋……!」
マリーベルが驚愕に目を見開く。
「伝承だけだと思ってたのに、本当に存在してるのね……」
「やはり……」
ライネルが剣を握りしめた。
「この街で何かが始まろうとしている」
その時、闇の奥から声が響いた。
――仇討ちの女よ。
バネッサははっと顔を上げた。
誰も気づいていない。
だが彼女だけが、その声を聞いた。
――虚構を掲げよ。
――お前の嫌悪と絶望を、舞台の力に変えるのだ。
囁きは甘く、底冷えするほど冷酷だった。
地獄に住む悪魔が、彼女を導こうとしている。
バネッサは拳を強く握った。
胸の奥の「嫌な感情」が、今まさに形を変えようとしている。