第0146話 人は虚構を求める
夜の広場に篝火が焚かれていた。
群衆はなおもざわめき、仇討ちを宣言した女――バネッサの姿を追い求めている。
だがその視線の重さに、彼女は胸の奥底で小さな疑念を膨らませていた。
――本当にこれでいいのだろうか。
「おい、行くぞ」
ライネルが低く言い、彼女を群衆から引き離した。
石畳を抜け、四人とともに路地裏に入る。
そこで初めて、バネッサは安堵の吐息をついた。
「人気者だな」
シルヴィアがちゃらんぽらんに口笛を吹く。
「みんなあんたを信じちゃってる。嘘だとは思いもしない。いや、むしろ嘘でも構わないって顔さ」
「……あの人たちは」
バネッサは言葉を探した。
「仇討ちを信じたいだけ、なのよ」
「信じるに足るものが無い時、人は虚構を求める」
アリアが淡々と呟いた。
「でも、それは罪なのかしら。わたしはずっと考えてしまう」
「罪だろうな」
ライネルの声は暗く重い。
「正義を装った嘘は、いずれ大きな犠牲を生む」
その言葉に、バネッサは小さく肩を震わせた。
――犠牲。
自分がすでに切り捨てられ、誰にも望まれなかった存在であることを、暗に突きつけられた気がした。
マリーベルが手をひらひらと振った。
「難しい話は後にしなさいよ。まずは証拠よ。敵が本当に地下で動いてるのか、突き止めなきゃ」