第0144話 調査
調査はすぐに始まった。
昼下がりの市場を通り抜け、彼らは人々に聞き込みを行う。
だが……それは予想以上に厄介だった。
「なあ姐さん、あの人に訊いてきたら?」
シルヴィアがバネッサに軽口を叩く。
「ほら、あんたが仇討ちの女って噂、もう広まってるからさ。群衆はあんたを見たがってる」
実際、バネッサが通ると、視線が一斉に集まった。
「仇討ちをする女だってよ」「雷を討ち滅ぼすんだろう」
そんな声がざわめきとなって広がり、子供まで駆け寄って名を尋ねてくる。
バネッサは心臓が強く脈打つのを感じた。
――違う。これは嘘だ。
でも、嘘はすでに群衆の中で形を持ち始めている。
彼女が望んだ「舞台」が、思いがけず現実の中で築かれつつあるのだ。
ライネルが不機嫌そうに唸った。
「……人の目が集まりすぎだ。仇討ちが芝居であることが露見すれば、俺たちごと信頼を失う」
「だからこそ、群衆を利用するんじゃないかしら」
マリーベルの唇に炎のような笑みが浮かんだ。
「大勢の目があれば、敵も隠れきれない。焚きつけてやればいいのよ」
「危うい考えです……」
アリアは首を振りながらも、その声には迷いが混じっていた。
「けれど、もう後戻りはできない気がします」