第0143話 路地裏
翌朝、四葉亭の二階。
まだ薄暗い窓辺に、探偵団の四人とバネッサが集まっていた。
地図が卓に広げられ、燭台の火が影を落とす。
「ここだ」
ライネルが指で示したのは、城塞都市の地下へ続く旧い下水道。
「昨夜の聞き込みで判明した。雷公の生き肝を狙う者たちは、この路地裏から潜っている」
「へえ、意外と早い仕事っぷり」
シルヴィアが笑い、椅子を後ろに傾ける。
「でも怪しいぜ? 誰だって、地下の噂くらい流すものさ」
「だからこそ確認が要るのだ」
ライネルは暗い声で言い切る。
「復讐の依頼が虚構だとしても、雷の儀式が現実ならば街を滅ぼす。無視はできん」
「……虚構だなんて」
バネッサが小さく反論しかけるが、その声はすぐにかき消された。
「やめなさい」
マリーベルが短く言い放ち、赤毛を揺らす。
「依頼人の芝居じみた言葉はどうでもいいの。私たちは事実を暴く、それだけ」
アリアは窓辺に佇み、外を眺めながらぽつりと呟く。
「昨夜、教会の鐘が二度鳴った……。悪しきものが街に忍び込んだ時、鐘は不思議と鳴るのです」
その言葉が一同を黙らせた。
地下に潜む「何か」が確かに存在している――そう直感させる声音だった。