第0130話 “血の霧”
夜霧の街に、鐘の音が重く響いた。
酒場「四葉亭」の窓を震わせるほどの低い響きは、街の誰もが忌むべき合図と知っていた。
――“血の霧”が現れる夜。
ライネルが重い甲冑の肩を鳴らしながら立ち上がった。
「この街に流れる噂、本当だったらしいな。人の命を贄にして霧を操る連中がいると」
彼の声には憤怒と警戒が同居していた。
シルヴィアは酒瓶を傾けながら、からりと笑う。
「まあ、こういう時こそ稼ぎ時よ。怖がって逃げ帰る奴が多いほど、アタシたちの価値は上がるんだから」
「笑って済む話じゃないわ!」
マリーベルがテーブルを叩く。炎のような髪が揺れ、怒りが燃え立つ。
「霧の向こうで人が殺されているのよ。血を吸うような儀式が行われているかもしれない」
その言葉に、アリアは怯えたように両手を胸に組んだ。
「……私、怖い。けれど……助けを求める声を無視はできない」
寂しがり屋の彼女の声は小さかったが、その中に確かな決意が宿っていた。
四人の視線が主人公に集まる。
逃げたい気持ちが胸の奥でざわめく。しかし、ここで背を向ければ
再び過去と同じ過ちを繰り返すことになる。
「……行こう。血の霧の真実を暴く」
そう口にした瞬間、エッジの中の恐怖は少しだけ形を変えた。