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第0126話 エッジ
街は夜霧に沈み、灯火の輪郭さえ溶かしていた。
エッジは酒場を出て、依頼人から託された銀の封筒を握り締めていた。指先に伝わる冷たさが、嫌な記憶を蘇らせる。
――過去。決して振り返りたくはない、しかし脳裏を掠める亡霊。
その封蝋の四つ葉は、かつてエッジが「失敗」を重ねた事件と深く関わっていた。
胸の奥でざらつく感情を必死に押し殺しながら、足を運ぶ。
だが、暗がりの路地に踏み込んだ途端、背後から石が転がる音がした。
「……誰だ」
問いかける声に応じず、影がひとつ動いた。
月明かりが差し、そこに現れたのは痩身の男。目だけが異様に光っている。
「お前には、関わらせない」
そう呟くと同時に、男はエッジへと突きかかった。
短い取っ組み合い。だが男は殺意よりも“牽制”を優先していた。
エッジの脇腹に痛みが走り、次の瞬間には影は霧に紛れて消えていた。
痛みを堪えながら、エッジは思う。
――これはただの依頼ではない。自分が追われる立場に立たされる、
忌まわしい連鎖の始まりだ。