第0123話 裸足の女
舞台の中央、霧の中から一人の女性がゆっくりと姿を現した。
足元には靴もなく、裸足で床の光を踏むたびに微かな音が響く。
髪は淡い光を帯び、風に揺れるごとに周囲の霧をかき分け、舞台の影を踊らせる。
その瞳は深く静かで、虚構と現実を逆転させた世界の核心を映しているかのようだった。
ライネルは息を飲み、剣をわずかに握り直す。
「……これが、真実の鏡か」
舞台の光と影、霧の揺らめきが、彼の決意をさらに固くする。
シルヴィアは目を細め、影の中をすばやく見渡す。
「怖い……けど、美しいわね。生きているような静けさ……」
肩の緊張は残るが、目の奥には戦いの余韻を楽しむような光が宿る。
マリーベルは炎を指先に灯し、光を舞台の女性に向ける。
「怒りも恐怖も……もう力を持たない」
その炎が、怪物の残滓を完全に消し去るとともに、舞台全体に暖かさと静謐をもたらす。
アリアは手を組み、深く息をつく。
「犠牲者を出さず……真実がここに」
祈りの静けさが霧を透過し、女性の存在を包み込み、舞台に柔らかな光を生む。
裸足の女は微笑むこともなく、ただ静かに立つ。
その姿は、虚構と現実を交錯させた世界における純粋さの象徴だった。
四人はその場に立ち尽くし、言葉を交わさずとも互いの達成感と決意を確認する。
ライネルはゆっくりと剣を鞘に収め、仲間たちに目を向ける。
「虚構と現実を超え、失われた純粋さを取り戻した……これが、我々の勝利だ」
霧は静かに舞台を覆い、舞台の光は柔らかく揺れた。
裸足の女は微かに光を帯びながら、ゆっくりと霧の中へと消えていく。
その姿は決して消え去ったのではなく、観る者の心に静かに刻まれた。
シルヴィアは息をつき、マリーベルは指先の炎を消す。
アリアは深く手を下ろし、舞台の余韻を心で感じ取る。
ライネルは仲間たちの肩に手を置き、静かに頷く。
劇場は再び静寂に包まれ、霧と光だけが残る。
長く重かった恐怖と怒りの影は消え、代わりに純粋な決意と希望が四人の胸に宿った。
この瞬間、彼らは虚構と現実の逆転した世界の核心に触れ、失われた純粋さを取り戻したのだった。
霧の中、四人は舞台を後にし、四葉亭の夜の街に足を踏み入れる。
次なる物語への覚悟を胸に、しかし静かで確かな勝利の余韻を残しながら──。
