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第0119話 霧と暗闇、舞台の残滓

劇場〈数列の影〉の奥、湿った空気が肌にまとわりつき、息を吸うたびに冷たさが胸を締めつけた。

床に残る怪物の影はまだ完全には消えず、微かに揺れながら呼吸するように見える。

舞台の隅々には、座長が設置した小道具や暗号の断片が散らばり、光を受けて不規則に反射していた。


ライネルは剣を握りしめ、ゆっくりと呼吸を整える。

「ここから先は、全力で行くしかない……座長の本当の狙いを暴くために」

床に残る影がまるで視線を持つかのようにうごめき、ライネルの心拍を高めた。


シルヴィアは軽口を叩きながらも、瞳は鋭く舞台の奥を見据える。

「怖いけど……心臓が跳ねる感じ、嫌いじゃないわ」

口角の笑みは崩れないが、肩の緊張が微かに震える。

「この静寂……まるで息を潜めろと言われているみたいね」


マリーベルは指先に炎を灯し、舞台の影を照らす。

炎の揺らめきが床の暗号に反射し、数字と文字が微かに浮かび上がる。

「怒りや恐怖に任せれば、怪物の力は増す……冷静に、慎重に」

火の揺らぎが、舞台の不安定さと自分の感情の連動を思い起こさせる。


アリアは手を組み、静かに目を閉じる。

「犠牲者を出さずに、真実を取り戻す……心を乱さないで」

彼女の祈りは小さくとも確かな力を帯び、舞台の不穏な空気をわずかに和らげた。


霧は舞台の奥から押し寄せ、床の暗号の光を揺らしながら、劇場全体を包む。

空気の振動は微かに耳に届き、怪物の低いうなりと座長の気配を予感させた。


四人は互いの視線を交わす。

言葉はなくても、心が互いを確かめ合う。

恐怖と緊張、怒りと不安、そして決意――そのすべてが、舞台の静寂の中でひそかに共鳴していた。


ライネルは静かに剣を握り直す。

「全員、準備はいいか? ここからが、本当の戦いだ」


シルヴィアは微笑む。

「ええ……この静寂が破られる瞬間を、楽しみにしていたのよ」


マリーベルは炎を強く揺らし、影を確認する。

「怒りも恐怖も、私たちの心で抑える……集中するんだ」


アリアはゆっくりと手を下ろし、最後の祈りを心の中で唱える。

「犠牲者を増やさず、真実を手に……心を乱さずに」


霧と暗闇、舞台の残滓……すべてが緊張感を増幅させる中、四人は静かに呼吸を合わせ、決戦の時を待った。

まるで世界そのものが息を潜め、次の瞬間に起こる嵐を予告しているかのようだった。

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