第0118話 怪物の痕跡
怪物の影は最後の低いうなりを残して、ゆっくりと舞台から消えた。
床に残る影の模様は、まるで怪物の骨格のように形を留め、舞台の光を受けて微かに揺れている。
ライネルは剣を鞘に収め、深く息をついた。
「……終わったか」
シルヴィアは肩の力を抜き、わずかに笑う。
「ふぅ……怖かったけど、面白かったわね。あの影、ほんとに生きてるみたいだった」
しかし、瞳の奥には戦いの余韻が残り、まだ安心できないことを示していた。
マリーベルは炎を消し、手を見つめる。
「怒りも恐怖も、完全には消えていない……この舞台の力は、まだどこかに残っている」
指先に残る熱の感覚が、怪物の残滓を知らせていた。
アリアは手を合わせ、静かに祈る。
「犠牲者は出なかった……でも、心の傷は残る……私たち自身が、まだ試されている」
微かに震える声が、劇場の静寂に溶ける。
窓の外、霧は舞台の影と同じリズムで揺れ、怪物の輪郭をかすかに映す。
「座長は……まだどこかにいる」ライネルの声は低く、確信を帯びていた。
「奴が本当に狙うものは、私たちの恐怖だけではない。何か、もっと核心的なものだ」
シルヴィアは台詞を逆さに読み上げながら、目を細める。
「次に出てくるのは……誰なのかしら。怪物だけじゃない気がする」
マリーベルは舞台の装置を指で撫でる。
「この暗号、まだ解ききれていない……座長の真の意図は、完全には明らかになっていない」
アリアは微かに息をつき、手を下ろす。
「犠牲者がいなかったとはいえ、私たちの心は試され続けている……次は、もっと大きな試練が待つ」
ライネルは四人の顔を順に見回し、静かに言った。
「次の目的は……逆・裸足の女。座長の真意と、怪物の核心に迫るためには、避けられない戦いになる」
舞台には怪物の痕跡が残り、暗号は微かに光を放つ。
その残光は、次に待つ未知の試練を告げるかのようだった。
四人は互いに視線を交わし、覚悟を確認する。
暗号、怪物、座長の影……すべてが、次章での決戦へと収束していく。
霧は依然として街路を覆い、夜の静寂に不気味な余韻を残した。
「行くぞ……次が本当の勝負だ」
ライネルの声に、仲間たちは静かに頷いた。
舞台の残滓と霧の中、四人の心は決意で満ち、次なる戦い──逆・裸足の女との対決──へ向かって歩み出した。