第0101話 劇場〈数列の影〉
霧は夜の街路に重く垂れ込め、石畳を濡らして鈍く光っていた。
ライネルは深く帽子をかぶり、手元の羊皮紙を確かめる。
「暗号は……すべて、劇場の座標を示している。これを読み解かなければ、座長の居場所も、怪物の正体もわからない」
シルヴィアは軽く笑いながら肩をすくめる。
「真面目だね。あたしは直感で動くタイプだけど……こういう緊張感は悪くないわ」
マリーベルは指先に火花を灯し、紙面を照らす。
「直感も結構だが、油断すれば怪物に飲み込まれる。準備は万全に」
アリアは祈るように手を組む。
「犠牲者を出さないために……心を静めて」
霧は濃く、街灯の光も届かず、足音だけが静かに反響する。
四人の影は互いに絡み合い、まるで夜の迷宮を歩くかのように伸び、曲がり角ごとに消えたり現れたりする。
遠くで犬の遠吠えが、暗号が指す不吉な予兆のように響いた。
「……ここからが、試練の始まりだな」ライネルが低くつぶやく。
シルヴィアが肩をすくめ、眉をひそめる。
「ふふ……どんな顔が待ってるのかしらね」
霧の向こうに、異様な存在感を放つ劇場〈数列の影〉の屋根が浮かび上がる。
四人は互いに目配せをし、息を整えて潜入に備えた。