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女王の帰還

 目を覚ましたら、見知った天井でした。ええそう、いつもの自分の寝室の天井が見えてます。

 どうやら、天国ではないらしいです。生きていた――その事実が、ゆっくりと体に染み込んでくるような気がしました。


 ところで、右手が何だか暖かいです。そして、右の脇腹あたりが重たいな?

 それで、目を右下に向けると、きらきらとした金髪が目に入りました。


 あっ!


 ヴァルターが、私の右手を握りしめたまま、脇腹の上に突っ伏して寝ています。


 うほっ!


 変な声が出ました。女性が出すべき声じゃなかった気がします。


「ええと……、私、生きてる?」


 呆然と呟くと、脇腹にあった金髪頭ががばっと跳ね上がりました。


「目が覚められたのですね! ルビーナさま!!!」


 右手を握っていた手がもうひとつ増え、両手で握りしめたまま、ヴァルターが感極まっています。宝石のようなアイスブルーの瞳からはらはらと涙が零れて、あまりの美しさに目が潰れそうです。泣いてても美しいなんて、さすがは原作ヒーロー。反則にもほどがあります。


「お、落ち着いてヴァルター……いや、あーごほんごほん。そなたが助けてくれたのだな。助かったぞ。さすがは、筆頭近衛騎士だな。ううむ、それで、あれから何日くらい経ったのかな?」


 うっかり素が出そうになりましたが、女王の威厳を取り繕います。

 体を起こそうとしても、うまく動きません。まだだいぶ疲弊しているようです。


「ルビーナさまの発見は幸い当日でしたので、失踪されてからおおよそ三日ほどになります」

「そんなに意識を失っていたのか……」

「はい、とても心配しました」


 右手を握りしめているヴァルターの両手がかすかに震えています。それは、自分が彼に、どれほどの不安と恐怖を与えてしまったのかを表しているように思えました。


「すまぬ。皆には心配をかけた……国民の皆へは」

「はい、国民へは、ルビーナ様が病気快癒のための祈祷をおこなったが、それに力を使い果たしてしまったため、今は療養している、と伝えています」


 うん、嘘は言ってないな。詳細を少しばかり隠しているだけですね?


「そのため、感謝の見舞い品が国中から届いております」


 ははは、と乾いた笑いが出ました。


「ルビーナの目が覚めたって!?」

「ルビーナさま!」


 そこへ、ノアとセレナの二人が飛び込んできました。ノアが人型を取っているのに、驚いてしまいます。


「珍しいな。カラスの姿じゃないなんて」

「……あんたが失踪したりするから、カラスじゃ役に立たないだろう? ……あんたの危機に、ただ鳴いているだけのカラスじゃ、何にもできなかったんだよ……」


 そうなのか? と小首を傾げると、ジト目で睨まれました。はい、ごめんなさい。


「あまり、騒がしくしない方がいいのではないですか?

 ルビーナさまは病み上がりですよ?

 何か食べられそうですか? 食事をお持ちしますよ。

 まずは、おかゆからですね。消化のいいお野菜も、入れておきますね」


 セレナにやんわりと窘められて、ノアは素直に引き下がっています。その様子に、おや? と首を傾げてしまいました。


「そなたたち、いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」


 何だか二人の間の空気が柔らかい気がしますよ?


「な、仲が良くなんてない!!!」

「そうなんですか? ノアさんとはだいぶ仲良くなれた気がして喜んでいたんですけど……」


 真っ赤になって否定するノアの言葉に、セレナが寂しそうに呟くと、ノアがうっと胸を押さえました。


「ま、前よりは、仲が良くなった……かもしれない……」


 ぼそぼそと呟くのに、「あら嬉しい」とセレナが顔を綻ばせれば、ノアが更にのたうっています。あらあらまあまあ……


「面白い……」

「彼らで遊ぶのはやめてやってください……そして、ルビーナさまが病み上がりなのは確かにそうですね。

 食事をされて、ゆっくりとお休みください」

「そうだな……」


 ヴァルターの言葉に力なく頷きます。笑ってはいましたが、それだけで気が遠くなりそうでした。今は回復に専念しましょう。そして、回復したら……


「回復したら、になるが、そなたたちに話したいことがたくさんある。聞いてくれるだろうか?」

「もちろんです、女王陛下。――どんなことでも、お話しください」


 ヴァルターは、握り続けていた私の右手を更に強く握りしめると、真摯に頷いてくれたのでした。

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