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主を探す使い魔

「どういうことだ」


 オレは上ずりそうになる声を押さえつけながら、セレナを問い詰めた。セレナは困り果てた様子で、先ほど口にした内容を丁寧に説明しなおす。


「朝の準備のため、いつもの時間に、ルビーナさまの寝室へ伺いました。

 声をかけても答えがないので、部屋に入ったところ、寝台にもどこにもお姿がありませんでした。

 それで、まさか、既に執務室に向かわれたのかと慌ててそちらへ行ったのですが、そこにもいらっしゃらなくて……浴室なども見に行ったのですがおられなくて……それで、使い魔のノアさんなら、何かご存じではないかと聞きに来たのです」


 その間、オレは必死になってルビーナの魔力を探っていた。


「……くそっ、感じない」


 本来であれば、使い魔とその主の間には一種の魔力的なつながりがあって、意識すればどのあたりにいるかくらいは分かるようになっている。それが感じられない。


「行くぞ」

「え、どこに」


 屋内なら人型のほうが早い。そう判断して姿を変えると、セレナが目を丸くした。いつもはルビーナの肩に止まっているので、そういえば人型は初めて見せたかもしれない。この姿は、どうにも肌に合わない。だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


 オレはルビーナの寝室へと、小走りに向かった。寝室の前には、ひとつ人影があった。


「ソレイユ殿……と、その姿はノアか、珍しいな」


 朝から一分(いちぶ)の隙もないほど整えた姿の筆頭近衛騎士殿が、オレたちの切迫した様子に気が付いて、眉をひそめるのが見えた。


「……ルビーナ様に何かあったのか?」

「どけ」


 いちいち相手をするのも面倒で、押しのけるようにして寝室のドアを開ける。


「おい!」


 苛立ったような声が後ろから追ってきたが、気にしていられない。


「それが、ルビーナさまの姿が朝から見当たらないのです」

「何だって!?」


 取りなすようにセレナが説明し、それにヴァルターが焦った声を上げるのが聞こえてきた。


「どういうことだ」

「それを今から調べるんだ。邪魔するな」


 大股に近づいてきた気配がして、声が上から降ってきたが、うるさい。


「魔力を辿るには集中する必要がある。黙ってろ」


 舌打ちが聞こえたが、すぐ静かになった。こいつは、女王が好き過ぎてオレにも敵意を見せるような面倒臭い奴だが、こういう時に判断を間違える奴ではない。ともあれ、ようやく落ち着いて魔力を辿ることができる。

 寝台に残り香のように漂う、赤い魔力。うっすらとしたその気配は、使い魔として特別なつながりがあるオレでなければ感知することもできないだろう。

 セレナは魔術に造詣が深いわけではないが、勘の鋭いところがある。オレをまず呼びに来たのは正解だった。


「おい、どこへ行く」


 部屋を飛び出せば、苛立った声が後ろから聞こえてくるが、無視して先へ進む。オレは臭いを追う犬のように、ルビーナの魔力を追った。うっすらとした気配のようなそれは、今にも途切れそうだ。


 オレはルビーナの魔力に導かれるままに王城の中を進んで、一室の前にたどり着いた。


「ここは……?」

「待てと言って……、ここは、王家の図書室だな。王族以外は入ることができない」


 後ろから追いついてきた白い騎士が、乱れた髪をかき上げながら教えてくれた。たまには役に立つじゃないか。

 目を凝らして魔法を読んでみれば、確かに入室制限の魔法がかかっていた。


「なるほど……だが、これなら」


 ルビーナの魔力を共有している使い魔ならばいけるかもしれない。

 軽く魔力を流しながらドアノブに触れると、運のいいことにかちゃりと錠が開いた。後ろから視線が突き刺さっている気がするが、気にしない。早くしないと、ルビーナの魔力が消えてしまう。

 室内に踏み込むと、そこには図書室というだけあって、古い書物や巻物をみっしりと詰め込んだ棚が並んでいた。


「ルビーナは、あの流行り病について何か心当たりがあるようだった。ここにはそれを確認しにきたのか?」


 部屋内に残る魔力の様子から、しばらくここで調べ物をしていたようだ。だが、今ここにルビーナの姿はない。ここを出て、どこかへ行った?

 しかし、外に魔力は繋がっていなかった。では、どこに行った?

 部屋の中を探るが、いくつかの書物や巻物が魔力を帯びているせいか、紛れてしまって良く分からない。


「ここで、跡が途切れている。

 ここからどこか外へ出る方法があるのか、それとも転移でもしたのか……

 ルビーナ! どこへ行ったんだ! ルビーナっっ!!!」


 パニックを起こして叫んでいると、力強い手が後ろからぐっとオレを押さえつけた。


「落ち着け、取り乱すな。

 ここで魔力が途切れているんだな。わかった。ここからは、俺が引き継ぐ。

 俺の……いや、この国の全てであるルビーナ様を、必ず見つけ出す。

 お前はしばらく休んでおけ」


 強い手が離れると、入れ替わるように、暖かい手がそっと肩に添えられる。


「ノアさま、走り通しでお疲れでしょう。しばらくはアッシュフィールド卿にお任せして、少しお休みください。鎮静効果のあるお茶を入れましょう」


 セレナの優しい声に、オレは崩れるようにへたり込んだ。

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