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世界の底──地獄と呼ばれたその世界には、様々な国があったとされる。その中で大国と呼ばれた、とある悪魔達の国。これはその死灰復燃の物語。
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──結局、奇跡は起こらなかったらしい。
強化ガラス越しに果てた景色を見る彼女は、途方に暮れていた。
視界の隅々にまで茂る森に対し果てた景色呼ばわりするのは、失礼かもしれない。でもそれは、彼女が見知った景色とは到底言えるものではなかったのだ。
木々の背は彼女のいる家屋を優に越え、暗く淀んだ世界を構築する。そこにあった人も、物も、栄光も、今や知る由もない。
「かえって実感が湧かないな」
ついた手をガラスから離し、だらりと座り込んでしまった。景色から顔を逸らした先には鏡がある。
外とは対照的に、彼女の容姿はまるで変わっていない。淡い赤紫の伸びた髪に、高いとも低いとも言い難い身長。多少筋肉のついた体格と、死装束じみた白い服。
目隠しのように巻かれた布は彼女の目線の先をあやふやにさせ、今どうなっているのはわからない。
彼女の名は“ルイス”この世で最後の亡国の兵士だ。
白い服を除けば、彼女の生きた時代では至って普通の格好だ。
ふと、最後の記憶が彼女の脳裏に蘇る。
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「いいですか。次に目が覚めた時、地図からこの国が消えていようとも、貴女は自由です」
そう言って棺の蓋を閉める親友の目には涙が浮かんでいる。
戦局は誰が見ても劣勢だった。ゆえに何としても“奴”に一矢報いるため、ルイスは犠牲になった。いわば、生贄だ。
幸い、魂が再生すればまた生きられるようになるそうだが、果たしてそれにどれほどの年月を費やすのか。
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──あの後どうなったんだろう。
そんな疑問がルイスの中に浮かぶ。
無論、滅んだのは確かだ。現に跡形もない。しかしルイスが気になるのは一体どのようにして抗い、どのようにして滅んだのか。途中までは分かるが、そのすべての道筋をルイスは知りたくなった。
そして親友は、どんな最後を迎えたのか。墓くらい作りたいと、ルイスは部屋を見回した。
内装は至って単調な白、白、白。
部屋の中央は角張った青白い棺が置かれ、日用品を除けば、他にあるのはルイスの武具のみ。
特に目を引くのは軍服。周囲とは違う赤みがかった黒を基調とする折り襟のそれは、ルイスが愛した国のものだ。年月が経っているためか、所々繊維がほつれている。
「あれは自由にしろと言ったな」
軍服へ着替えながら、ルイスは呟く。
白装束は壁に掛け、髪を結び
「いいさ、自由にさせてもらう」
替えの服をトランクに詰め、彼女の武器──金属じみた小型のそれも何個か放り込む。
彼女──ルイスは軍服の代わりに着ていた白装束を掛け、そのまま重々しい扉を開けて外へと掛けていった。
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