1年D組
真が立ち上がった途端、周囲から話し声が聞こえる。
「アレが特別生徒か……」
「へぇ、軟弱そうだな。」
「ふわぁ、眠い。早く終わらないかな。」
真は一礼をして席に着いた。学園長も軽く頭を下げ、次の者の名前を呼んだ。
そして、全員の呼名が完了し、学園長の挨拶の時間となった。学園長はとてもにこにこしながらマイクを握り直す。一周まわって不気味だ。
「えー、まず、ご入学おめでとうございます。私から言うことは一つ。楽しく、不気味な学園生活を送ってください。以上。」
また、『不気味』という言葉が出てきて、真はさらに困惑した。何が不気味なのかが分からないからだ。
学園長の話が終わると、全体が明るく照らされた。生徒や先生の顔がはっきりと見えるようになり、真は驚愕した。なぜなら、そこに居たのは人間ではなかったからだ。
周囲を見渡すと、角が生えている者、牙のある者、翼の生えている者等が居る。しかも全員だ。タマシイ先生の話ぶりからある程度は予想していたが、まさか全員がそうだとは思わなかった。
「では、これからクラスへと移動をする。D組は俺に着いてこい。」
タマシイ先生が誘導をした。なぜかというと、D組だけが少し遠いところにあるからだ。なぜかは分からない。
D 組の教室に到着し、生徒が席に着いた。そして、タマシイ先生が黒板の前に立った。
「今日から俺がこの1年D組の担任となった。タマシイだ。教科は歴史。よろしく。さて、このクラスには特別生徒の嘘川 真が居る。彼は別の世界からやってきた。分からないことが多いだろうからみんなで助けるように。」
タマシイ先生は真を指差して言った。クラス全員の視線が真に向けられる。
「さて、本来ならここで自己紹介をするが、時間の都合で割愛する。これから寮へと案内する。自己紹介は今夜の自由時間にでもしておくように。急で申し訳ないが、再度移動を開始する。荷物がある者は全て持つように。」
タマシイ先生は必要なことだけを話終えると、すぐに廊下へと出ていってしまった。生徒たちも移動を開始する。
この学園の寮は学園内にある。クラスによって場所が異なり、一部屋六人だ。
真たちの寮は何だか不気味な森の近くにあった。木造の建物で、今にも崩れ落ちそうだ。
「ここがお前たちの寮となる。部屋分けは俺がしておいた。1班から発表していく。」
そうして、班分けが始まった。1班、2班、と続々と部屋に移動していく。
「続いて最後に5班。嘘川 真。夢見メメ。シルク・マミー。月狼 ガヴ。ホワイト・ゴースト。ミスト・シアン。」
真に続いて、ほかの五人が部屋へと入る。
(……まて、なぜ俺は平然と従っているんだ?俺はこんな所にいつまでもいる訳には行かないんだ。早くここから出ないと。今夜のうちにも逃げ出してやる。)
真は脱走計画を練りながら、男子部屋の扉を開けた。この寮は二階建てで、計六つの部屋がある。1班から3班が1階。4班と5班が2階である。残った人部屋は空き部屋だ。
そして、その部屋の中にもまた部屋が別れている。男子部屋と女子部屋、そして、リビングのような部屋、トイレ、風呂場などがある。まるでシェアハウスのようだ。
真の班員は、角がある者、包帯でぐるぐる巻きの者、獣の耳がある者、シーツのようなものを被った者、魔女の格好をした者、である。分かっていることは、こいつらは人間では無い。それだけだ。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……いつまで続くのよ、これ。」
水色髪の魔女がそう言った。初対面ということもあるが、全員がお互いの顔を見合せながら、一言も話さないからだ。一先ず、全員で自己紹介をすることにした。
まず、角が生えた白髪の奴は夢見メメ。種族はバフォメットだ。全体的に白くて、モコモコした服を着ているので羊のように見えてしまう。自己紹介を終えると眠ってしまった。
隣でボーッとしているのがシルク・マミー。彼女はミイラだ。ミイラと言っても皮膚が乾燥している訳ではなく、ただ包帯でぐるぐる巻きになっているだけのようだ。素顔は分からない。
いつまでも下を向いてだんまりを決め込んでいる灰色髪の男が月狼ガヴ。狼人間だ。顔は整っていて、獣の耳が頭に着いている。立派な牙が生えていて、とても鋭い。
シーツのようなものを被っているのがホワイト・ゴースト。本人曰く幽霊らしい。しかし、足はある。その場にいる全員が信じてはいなかった。
最後に、この状況下で勇気をだして発言したのがミスト・シアンだ。彼女は魔女で、魔法が使えるらしい。
真は少し後悔した。なぜこのような奴らと一緒になってしまったのか。一人は居眠り、一人は包帯ぐるぐる巻き、一人は無口な狼人間、一人は自称幽霊、一人は魔女。そして、人間の真。
(いやいやいや、もっとなんかさ、工夫はなかったのか。どうしてこうもまともい会話が出来ない奴が集まるかなぁ。俺もだけど。)
「ちょっと、あんたの番だよ。自己紹介。」