嘘川真は転移する
「おめでとうございます、嘘川真さん。貴方は今日からこの世界で生き、傀儡学園で仲間と共に生活する権利を獲得しました。」
「……はぁ!?」
突如、嘘川 真はこの世界にやってきた。いや、飛ばされてしまった、と表現した方が良いだろう。彼は今年、高校受験を終え、高校生活を満喫している真っ最中であった。日付は10月31日。真はハロウィンのドッキリではないかと、辺りを見渡した。
「ど、どういうことですか!」
辺りを見渡してもここがどこだか分からない。周囲にはカボチャが沢山と、骸骨のようなものが何十体と横たわっている。空は赤黒く、昼のはずなのに月が出ていた。しかも、その月は赤く、不気味な光を放っている。
「ですから、貴方はこれからこちらの世界で暮らすのですよ。安心してください!私たちがあなたの快適で不気味な学校生活を送れるように全力でサポート致します。」
快適で不気味という表現が少々気になるが、とにかくこの女から一刻も早く逃げなくてはならない。きっと、テレビのドッキリや、動画配信者の企画かなにかだろう、真はそんな程度に考えていた。
「お、俺はそんなところには行きませんから!!さようなら!!」
そう言って真はかぼちゃ畑の中を走った。しかし、いくら走っても進んでいないような感じがする。次第に、段々と大きな建物が見えてきた。
「ふぅ、ふぅ……ここまで……来れば……」
しかし、その建物を見た真は足を止めた。その建物は洋館の様な造りである。立派な門の前には【傀儡学園】と書かれている。あの女が言っていた学校の名前と同じだ。
「おやおや、そんなにこの学校に入学したいのですか。せっかちですねぇ。学校は逃げませんよー。」
「ひっ!!な、なんで!?」
いつの間にか真の後ろには先程の女が立っていた。数キロは走ったつもりだが、女は一瞬で追いついたようだ。またしても不気味な現象に、真は恐怖というものを感じた。
「ふふふ……早速不気味な体験をしましたねぇ。傀儡学園の生徒としては優秀かもしれませんよ。さぁ、行きますよ。これから服の用意や入学手続きをしますからねー」
「い、嫌だァ!!誰か助けてくれぇ!!」
嫌がる真を無理やり連れていく女。女の力はとても強く、男の真後からでも抵抗出来ないほどであった。
その後、学園の中で服の採寸をされた後、学園長室という場所に連れていかれた。学園長は骸骨で、スーツを着ていた。
「えーと、君が嘘川真君かな。こんばんは。あぁ、失礼。君の世界の時間だとまだ、こんにちは、かな。ケケケ。私はこの学園の学園長。スカルだ。よろしく。」
ここに来て初めて人間では無い、得体の知れない動くものを見た真は更に恐怖した。
「さてさて、驚いているところ申し訳ないが、少し話をしようか。あ、そうそうこれ、君の入学祝いだ。私のお手製だ。口に合うといいんだけど。あ、紅茶には砂糖を何杯入れる?」
学園長はそう言って、一切れのパンプキンパイを差し出した。学園長はティーポットを片手に、自分の紅茶に砂糖を三杯入れた。
「……砂糖はいいです。」
「あら、そう。甘くない方が好みなんだねぇ。」
「……あの、一体なんなんですか。誘拐ですよ、これは。」
「まぁまぁ落ち着いてよ。疲れてるだろうし、甘いものを食べながらゆっくり話そうじゃないの。」
真は走って疲れていたこともあり、パンプキンパイを口に入れた。甘さは控えめで、スパイスが効いている。その加減も絶妙な味だ。
「……おいしい、です。」
「おー、それは良かった。ケケケ。さて、本題に入ろうか。君はこれからこの傀儡学園で生活をしてもらうことになった。」
「……えーと、あまりよく分からないのですが……」
真がそう言うと、学園長は頷きながら答えた。
「うんうん。君の気持ちはよくわかるよ。なぜ君が選ばれたのか、それを話そうじゃないか。」
学園長は席を立って窓の方へと歩き、カーテンを勢いよく開けた。窓の外に広がっていたのはレンガ造りの家々と、ハロウィンの仮装をしたような人々が街中を歩いている光景であった。
「見ての通り、この世界は君の世界とは違う。実は、我が学園にはある伝統行事があってね、別の世界の人間を生徒として招き、学校生活を体験してもらうという行事なんだよ。これは、学園の過ごしやすさが別の世界の人にも伝わるかどうかのテストなんだ。」
「……で、俺が選ばれたと?」
真がそう言うと、学園長がまたしても頷いた。
「その通り。そして、生徒として選ばれた者にはある条件が課せられるのだよ。」
「ある条件?」
真が聞き返した後に、学園長が声を低くして答えた。
「……この学園生活を終えるまで、君は元の世界に帰ることは出来ないのだ!!」
「……はっ!!!???」