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「いいね、その反応。にしても魔法のこと知ってたんだ」


 その言葉にプレセアは小さく頷いた。


 歴史が好きな父親の影響で、プレセアは幼い頃から歴史書を好んで読んでいた。


 その中の一つに記載されていた。

 どんな事でも可能にしてしまう、遥か昔に滅んでしまった《魔法》

 そしてそんな魔法を自由自在に扱うことの出来る存在を《魔法使い》


 魔法と魔法使いの損失は、社会に大きな影響を及ぼしたとされている。



「父が研究者なんです。それで歴史書を集めていまして、私も幼い頃から触れていたのです」


「成程、道理で」


「とても驚きました。けど......私に見せても大丈夫なのですか?」


「プレセアさんは誰かに言いふらしたりする様な人じゃないでしょう? それに、魔法使いなんて言っても信じる人なんて居ないよ。実際に見せない限りは」



 リヒトはそう言うと瓶の蓋を締め、再び棚へと戻す。


 確かに今、魔法使いという存在は御伽噺に登場する架空の人物程度の扱いだ。

 なにせ、王族が彼等の存在を歴史上から消し去ってしまったのだから。



「それにしても、どうしてあんな所に? しかも、護衛もつけずに」


「そ、それは……」


 瞬間、脳裏に過ぎたのはルイスから告げられた言葉だった。

 そしてだんだんとその記憶は過去へと遡っていく。


 楽しかった日の記憶。

 ルイスと過ごす時間は、とても幸福に満ちていた。


 ……はずだったのだ。

 けれどそれは、いつの間にかそうではなくなってしまっていた。


 ただただ苦しくて、辛い日々。

 この想いが届く事は無いと気づいていながらも、もしかしたら……なんて少しもない希望にすがりついて。



 極めつけは、ルイスとアリアの会話。


 瞬間、プレセアの瞳から涙がこぼれ落ちた。

 リヒトの瞳が大きく見開かれる。



「も、申し訳ありません……! わたし、泣く、つもりなんて……」


「ごめん。嫌なことを思い出させたみたいだね」


「リヒト様は悪くありません。ただ、私が悪いんです。私の諦めが悪いから……」



 ずっと秘めていた本音を一つこぼしてしまえば、溢れ返りそうになっていた器から、一気に思いが溢れ出た。



「分かっていたんです。ルイスが私のことを好きになることなんてないって。でも、私は彼の傍に居られるのならそれでいいと思っていました。けど……そんなのは建前です。本当は、好きになって欲しかった。強欲だとは分かってます。そもそも、怖がって何も行動せずにいた私が、こんな事いう資格はないって分かってはいるんです。けど……私があの子よりも前からずっとルイスの事を愛してたのに!」



 ずっと隠し続けていた本音を、一つこぼしてしまえば、こんなにも溢れ出てしまうものなのか。


 ……なんて他人事にプレセアは思った。



「彼との距離がこれ以上離れたら……と思うと不安で仕方ありませんでした。だから、この想いは伝えないままでいいと心の奥に隠していました。けど、こうなるのなら伝えていれば良かった」



 ボロボロと溢れ出ては、流れ落ちる涙。

 拭っても拭っても、止まることを知らない。


 今更後悔しても遅いと分かっている。

 想いを伝えたとて、届かない事は明確だ。

 寧ろ更に距離が離れていただろう。


 それでもこれほど後悔するようなら、いっそ勇気を出して伝えればよかった。



 ……いや、そんなの言い訳だ。

 勇気が出なくて。

 ただ傍にいたい。

 愛なんて望まない。

 なんて欲望を抑え込み、偽りの自分を演じ続けたのはプレセア自身の判断だ。


「こんな臆病で馬鹿な自分、大嫌いっ!いっそ……全部忘れてしまえればいいのに。ルイス様のことも、こんな想いも。こんな愚かな自分も…!全部、忘れられたらいいのに!そうしたらきっと二人のことを応援できると思うんです....」


 声を荒げながらプレセアは全てを吐き出した。

 少しだけ、胸が苦しくなくなった気がした。


 そんなプレセアを見て、リヒトはとある提案を投げかけた。

 思いがけない、あまりにも渇望していた願いを叶える提案を。


「……そんなに辛いなら、ルイスのことも、その想いも。全部忘れてみる?」



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