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本当は、手紙なんて気づかなかった振りをして、現実から目を逸らし続けたいのが本音だった。

 しかし、プレセアは現実と向き合う事を選んだ。

 それが自分の為。何より……ルイスの為だと思ったからだ。



 いつからだろうか。

 プレセアの判断基準が……ルイスを重視したものへと変わったのは。



 翌日、プレセアはルイスを訪ねた。

 そしてメイドに案内され、ルイスの部屋へとやって来た。

 この部屋を訪れたのはいつ振りだろうか。

 昔はよく共に本に読みふけっていた。

 互いに好む本のジャンルは違ったが、だからこそ感想を言い合う事で知らない世界を知っていけるような気がして嬉しかった。



「ルイス。プレセアよ」


「あぁ。入っていいよ」



 __いつからだろう。


 __家に招待されなくなったのは。


 __扉を開けて、迎え入れてくれなくなったのは。


 __遊びにも、誘ってくれなくなったのは。


 __おすすめの本を紹介してくれなくなったのは。


 __私のことを、見ようともしなくなったのは。



 扉を開け、恐る恐る中に入る。

 本に塗れていた昔の部屋とは違って、今は高価そうな家具や宝石。悪趣味な壺、絵画などで溢れていて、嫌でも時間の経過を感じさせられた。



「手紙を出したのは一週間前だというのに、中々来るのが遅かったな」


「……ごめんなさい。体調を崩していて一週間寝込んでいたの」


「そう言えば、そんな話聞いたような……」



 ()()()話。

 ルイスにとってその程度の認識なのかと思うと辛かった。

 こっちは高熱にうなされ、キツくて、苦しくて仕方無かったのに。


「体調はもう良いのか?」


「はい。もうすっかり」


「そうか。……病み上がりで悪いが、大事な話があって呼び出したんだ」


「そのようですね……」



 本当は手紙なんて気づかなかった振りをしたかった。

 だって、これから告げられる言葉は嫌でも容易く想像出来てしまったのだから。

 逃げ出したい気持ちを、今にも溢れそうになる涙を……必死に堪える。

 自然と拳に力がこもった。



「好きな人が出来た。だから、婚約を解消したい」



 予感は、やはり的中した。


 いずれは確実に知ることとなる真実だ。

 ならば早く現実と向き合って、気持ちをスッキリ整理出来たら……なんて思っていたけど、実際はそう簡単に行く訳無かった。


 整理なんて出来る筈が無かった。

 ずっと、ずっと……好きだったのだ。

 そんな直ぐに恋心を消す事が出来たら、今まで苦労なんてして来なかった。


 薄々気付いていた。

 だんだんと距離が遠くなっていき、時折話す時もルイスはプレセアでは無い誰かの事を見ていた。


 ルイスの心に自分(プレセア)は元から存在しない事くらい。意識されていない事くらい分かっていた。

 それでも、傍に居たかった。

 大好きだから。

 愛していたから。

 愛されなくてもいい。

 傍に居させて欲しかった。

 隣に並んでいたい。

 高望みはしない。

 我儘だって言わない。



 __でも、告げてしまえばきっと、困らせてしまう。



 プレセアはルイスの笑顔が何よりも好きだった。

 彼の幸せこそが、何よりもの願いだから。



「君の事はとても大切に思ってる。でも、ごめん……。君を女性として見ることが出来ないんだ」



 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。

 その中でどうやらルイスは、プレセアを友人以上として見られなくなってしまったらしい。



「……お相手の方は、アリアですよね?」


「!? あ、あぁ……。知ってたのか」


「ついこの間、偶然二人が共にいる姿を見掛けて、その時に」


「そうか……」



 二人の間に沈黙が走る。


 気まずそうに目を逸らすルイスに、プレセアは苦笑を浮べる。

 申し訳なさは彼なりに感じているらしい。



「こんなこと、俺が言うのはおこがましいと思うが……プレセア。俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は……幸せになるべき人だから」



 その言葉に、思わずプレセアは瞳を瞬かせた。まさか、そんな風に思われていたとは……。


 プレセアは今にも溢れ出そうな涙を堪えた後、微笑んでみせた。

 しかし、実際はどうか分からない。

 酷い顔を晒している可能性だってある。


 ルイスの瞳には今、どんな風に自分が映っているのだろう……。


 そう思うと、少し怖くなった。



 ___けど、今は



「当たり前じゃない。幸せになるに決まってるでしょ」



 強がってみせて、自分は大丈夫だって。

 そう伝える事しか出来なかった。




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