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オーガスト日記  作者: フィクサー
第1章 追憶の文月編
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第3話 差出人と迷推理

 題名は書かれていなかった。

 表紙はまだ新品のように綺麗に形を保っている。


 姉が置いていったのか?

 そんな素振りは無かったが。


 不思議に思いながら、1ページずつ、なんとなく慎重にめくる。


 それはおそらく社会の板書ノートであった。

 常に一定の大きさの綺麗な字で、赤や青といった色も混じりながら美しい面を作っていた。

 15ページほどめくるとその右のページからは、純粋な、真っ白な無垢のページが続いていた。


 白紙だと思ったその右のページをよく見てみると、下の方に何やら小さめに、今にも消えてしまいそうな儚い雰囲気の文字が、一文を連ねていた。


『今度は一緒にゲームしましょう』


 筆跡が板書のものとほぼ同じだった。

 ノートの持ち主と同じ人が書いたのか。

 こんな言葉を俺に書けそうなのは姉しかいないが、これは姉のものではないだろう。


 面倒くさがりで早とちりな姉は、こんな回りくどいことはしない。

 ましてや、こんな綺麗な字でもない。


 差出人の見当をつけた俺は、このノートのからくりについて一人で議論した。




 数日後、姉がまたXを家に連れてきた。

 Xは今日も勉強道具を持参していた。

 しかし、この前とは何か違う。


 ああ、服か。

 私服なんだ、今日は。

 この前は学校終わり、荷物だけ置いてすぐに家に来たから、そのまま制服だった。

 しかし今日は日曜日。

 学校もないので、私服だ。


 俺は姉の友達には何人も会ったことあるし、彼女らの私服姿も見たことある。

 そして同じようにXも何もおかしくない普通の私服であったが、俺はどこか違和感を覚えた。


 俺が注視していると、Xは少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。




 姉たちは今回も2人で勉強をするらしい。

 終わったら3人でゲームをする、という二度目の正直的な確約を交わし、俺はまた自室に籠った。


 自室ではゲームはしなかった。


 あとでゲームはするはずだからそのときのために楽しみはとっておく、なんて理由もあったが本当の理由は違った。


 というのも、俺はノートの件を姉に隠していた。

 特に隠さなければいけない理由なんてなかったが、Xがわざわざノートを使って置き手紙のようなことをしてきたのは、おそらく姉にバレてはいけないからだろう。


 なぜバレちゃいけないか。

 俺は1人での議論の末、思いついた。


 姉はいつも俺に勉強をしなさい、と年上気取りをして勉強を催促してくる。

 自分のことは棚に上げて。


 最近の姉はXと定期的に勉強をしているようだから、おそらく今はやる気がある時期なんだろう。

 つまり、俺にも勉強を強要する時期、ということでもある。

 しかし最近姉に勉強しろと言われた記憶は無い。

 これらの状況から俺はある一つの推理をした。


 姉は俺にゲームをさせずに、俺が自ら勉強をするのを待っているんだ、と。


 姉が最近Xと2人だけで俺を入れずに勉強をしているのも、実は部屋で2人でゲームをしていて、バレないように俺をハブってんだろう。


 そして、俺がゲームをしようと姉の部屋に向かったときに、すぐにXを帰らせた。

 そのあと、俺のことを気の毒に思ったXが俺を心配して、励ましの置き手紙をくれたんだ。


 我ながら名推理である。




 あれ、でもこの前Xが帰ったあと姉とゲームしたな。


 結局、俺は真相が分からないままだった。

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