第11話 曇りの日の空回り
俺は夜になっても30分に1回ほどポストを確認しに行った。
もしかしたら忘れてるだけかも知れない。
もしかしたら夜には届けてくれるかも知れない。
そんな俺の希望を打ち砕くように、玄関のポストの中にはただ生暖かい湿った空気が充満していただけだった。
次の日、さすがに俺はXの家に行くことを決心した。
俺のX像は真面目そのものであった。
勉強にしても、ゲームにしても、対人関係にしても真面目で、そのどれにおいても模範的な行動をしていた。
そんなXが、締め切りからほぼ一日経っても姿を現さない。
おそらく俺と会いたくないのだろう。
人の愛読書の表紙を勝手に破るようなやつとは、誰だって交換日記なんかしたくないはずだ。
もしかしたらXはもう俺を許してくれないかもしれないけど、少なくとも俺には謝罪の義務があるだろう。
しっかり話し合って面と向かって謝ろう。
俺は猛省した。
まだ時計の短針が西の方角を指している頃に家を出た。
この時間ならまだXも外出してないだろうと思ったからだ。
俺は物憂げに玄関から外へ出ると、すぐに空を見上げた。
今日も灰色まみれの暗い曇天であった。
そんな様子に、俺は2日前の出来事を思い出させられた。
俺は頭をぶるぶると大きく振るって歩き出した。
俺は道端で綺麗な黄色い小さな花を見つけたので、それをお詫びの品としてXに献上することにした。
道草食ってる場合じゃないが、道草は必要だろう。
俺が歩きながら謝罪の方法に頭を悩ませていた。
Xなら話は聞いてくれるだろうが、しかしそれで許されるとは限らない。
俺の話なんてXにとっては言い訳でしかないだろう。
何も名案が思い浮かばない内に、俺はもう見知った門に着いてしまった。
インターホンを押す。
ピンポン、と鳴る。
そして次の瞬間、インターホン越しに声が流れてきた。
「もしもし、どちら様ですか?」
それはXの声ではなかった。
しかしなんとなく聞いたことがあるような声で、まだ若さの残る透き通った声をしていた。
Xの家族構成は知らないが、おそらくXの姉か母だろう。
実はXもすごく綺麗な声をしている。
まるで小川のせせらぎのような、鳥のさえずりのような、そんな儚く美しい声だ。
しかし、Xと話す機会が極端に少なかった俺は、特にそのことを意識したことはなかった。
インターホン越しでこの姉か母かの声を聞いて、Xの綺麗な声は遺伝だということに俺は絶対的な確信を得た。
俺は自分の名前を名乗ったあと、Xはいますか、と尋ねてみる。
少ししてインターホンから声が返ってきた。
「Xなら今外出しております」
Xが外出していないであろう時間を狙ったんだがな。
外出しているなら仕方ない、と俺は次の質問をした。
インターホンから返事が返って来る。
「今日のうちはもう戻らないと思います。
せっかく来て頂いたのにごめんなさい」
俺はその言葉に違和感を覚えた。
今日一日外出しているなら元から今日は日記交換できなかったんじゃないのか?
もしかしてXはその用事のせいで日記を渡しに来なかったのではないか?
少し考えてみたが、どれもまだ確定しない。
考え込んでいると、Xの姉か母かが話しかけてきた。
「あなたはXのお友達ですか?」
俺ははい、と答える。
「Xが迷惑を掛けることがあるかもしれないけど、どうか仲良くしてあげてくださいね。悪い子じゃないですから」
口調が先程より少し柔らかくなっていた。
そうだ、Xは悪い子ではないのだ。
Xはとても温厚で我慢強くて他人思いだ。
日記をくれなかったのは、おそらく予想外の出来事があったからだらう。
そう思い至った俺は、そのままXの家を後にした。
俺は気長にXからの日記を待とうと、特に何もせずに家へと帰った。
この時間の外出は親に許可されていなかったので、俺は勝手口から家の中へ入る。
鍵を取り出そうと秘密のポストへと手を入れる。
俺は違和感を感じ、自分の目でそれを確かめた。
ポストにはXからの日記と乾いた布が入っていた。




