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ヤンデレ狐は今日も笑顔  作者: 豊穣とくし
第一章
8/8

第七話

俺は入社したばかりの後輩とランチに来ていた―のだが。

大きな窓にはうるかの顔があった。

こちらをずっと見ている―。

後輩はあまりの驚きで口元まで運んでいたスプーンを下ろしてしまって顔が硬直していた。

このままではまずいと思った俺は思わず―

「た、谷原さん、気にしなくていい食事をしよう」

(この状況で食事をしようは無いだろう!)

心の中で叫んでいた。

変な事を言ってしまった俺は後輩の顔を見ると―。

「そうですね―食べましょう!時間も無いですから」

と、さっきまで驚いていたのが嘘の様に笑顔でオムライスを口に頬張る。

それを見て俺もオムライスを食べる事にした。

(うるかごめん、後で説明するから―)


 食事を終え、店を出た時にはうるかの姿は無かった。

「先輩、さっきの人は一体何だったんでしょうね?」

後輩は不思議な顔をしながら俺に問いかけてきた。

「さ、さぁ、何だったんだろうね」

俺も合わせて答えてみた。

職場へ戻り、午後からは後輩へ仕事のやり方を教えるはずだった―そうだったのだ。

ランチの時に見たうるかの姿を忘れられない。

今日は家に帰りたくないという考えが頭に浮かんでしまい後輩の教育に身が入らないのだ。

おそらく―間違いなく―絶対に!家に帰ると問い詰められる。

「先輩?」

後輩が心配そうに俺の顔を見ている。

「あ、ああ、すまない、続けよう」

なんとかその日の仕事は終わったが、今から家に帰る事を考えると恐怖でしかない。

昼の出来事から、うるかの姿は見ていないがそれが反って怖い。


 俺は玄関の扉を開け家に入りゆっくりとリビングへ向かう。

部屋の明かりは点いていない、うるかは見当たらず俺は安堵した―。

そう思った矢先に後ろから誰かに突き飛ばされ転倒してしまった。

「う、っ―!誰だ?」

起き上がろうとするが体が動かない。

床に体が引っ付いていている様で手も足もびくともしない。

倒れたままの俺の後ろから声が聞こえる。

()()()()()()()―天仁さん」

低く怒っている声がする。

「帰るのを今か今かと待っていましたよ」

うるかの声に間違いない。

「う、うる―か、これは―」

床に押しつぶされそうなくらい上から思い物を乗せられる様な感覚の中で俺は声を出した。

「天仁さん―私以外の女の人とお昼に食事に行ったのは何故?」

やはりその事か―想像はしていたがまさかこんな力も使えるなんて思っていなかった。

「あ―あれは、新しく入社した人で―俺の後輩で―向こうからランチに―誘われた―から――」

話すのがやっとだが、何とかうるかに伝えなくてはいけないと必死だった。

「ソウなんダ、天仁さんは女の子から食事に誘わレたらホイホイ行っテしまウんダ」

うるかはかなりやばい状態になっている。このままでは殺されかねない。

「ちが―!うぐっ!!」

急に背中に重みを感じた。これは間違いなくうるかが俺の上に乗っている。

「ねぇ、天仁さん―」

そう言いながら、うるかは俺の背中に何か冷たく固い何かを這わせている。

「天仁さんにはもっと私を―私だけを見てもらわないといけないの―この痛みで私の事を忘れないようにしないとだね」

背中に熱さと痛みが走る。間違いなくうるかは刃物で俺の背中を切っている―。

「くっ!」

この痛みは我慢できる、おそらくそんなに深く傷をつけていないだろう。

だが、うるかの事だ、この先このままでは済まないと思っているし、きっと俺の体はズタズタにされるだろう。

何度も同じ経験をしてきた―。

腹を刺されたり、毒を飲まされたり、突き落とされたり―。何度もだ。

いつも突然殺される事ばかりだったが今回は違う―いたぶっている。

痛みを感じさせて俺に覚えさせている。

「天仁さん―私以外の女と食事に行って楽しかった?」

そう言うと、また俺の背中に傷を入れていく。

「――ッ!」

まだ耐えられる痛みだ、それでも痛いのは辛い。

「わかった、ごめん。他の女の事食事に行った事は謝るから―」

俺は許しを貰うために謝ったが、うるかは手に持つ刃物を俺の背中に突き刺した。

「ぐぁぁぁっ――」

流石に痛い!痛すぎる!激痛で悶えたいのに体は動かない。

「―――天仁さん、痛いの?早くこの痛みから解放されたいの?」

俺は無言で頭を振って”そうだ”と首を縦に振る。言葉を出せないほど激痛なのだ。

「ソウ―わかったわ、天仁さん言い訳は()()()()()後で聞くね」

背中から左胸に熱い感じがしたのは一瞬で、俺が覚えている言葉はそれが最後だった。

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